溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
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あんなセリフ、漫画でしか見たことがない。
凛々しい眉を切なそうに下げた瀬戸生吹は、なにかに必死で耐えているように見えた。
簡単には割れない強化ガラスの頼もしさと、今にも砕けそうな薄氷の脆さを同時に内在させているようで、どこか危なっかしい。
九月下旬の連休を直前に控えた金曜日、昼休憩が終わったばかりのフロアは緩やかな空気が漂っていた。
大半の人間が業務をこなしながら連休のことを考えているような、浮ついた気配がある。私も気が付くと瀬戸くんの顔を思い出していて、手元がおろそかになっていた。
いけない。仕事に集中しなきゃ。
気を入れ直し、モニターに目を向けたとき、背後から焦った声が聞こえた。
「え、本当ですか」
見ると、芽衣ちゃんが電話を受けたまま固まっている。叱責されているわけでもないのに肩を縮め、まるですがりつくように受話器を両手で持っていた。
「ど、どうしよう。すみません、すみません」
泣きそうな声で電話を切ると、彼女は「どうしよう」と繰り返す。
「芽衣ちゃん、どうしたの?」
「先輩、わ、私……間違えて……どうすれば……」