溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
思い切ってビルの屋上から飛び降りたら。猛スピードで走るトラックに飛び込んだら。特急電車の線路に身を投げたら。
空っぽの肉体と心がいっぺんにバラバラになれば、悲しみも苦しみも粉々に消し飛んで楽になれるかもしれない。
死に至るまでの想像が、私の空洞をなによりも甘やかに埋めてくれる。そんな病的な日々から抜け出せたのは、ほんの一週間前のことだ。
「でも、死んだら本当に、全部なくなっちゃう。苦しみが消えるけど、可能性も消える。家族とか友達とか、人との繋がりも、これまで積み上げたものも、全部なくなる」
私という人間が生きていた証が消える。
死に片足を突っ込んでいるような人間に対して、我ながら陳腐な言葉だと思う。
些細なきっかけで救われた私と違って、瀬戸生吹がどれだけ深い闇の底にいるのかもわからない。
それでも今の私には、言葉を尽くすこと以外、なにもできない。
「瀬戸くんには、なにひとついい思い出がないんですか? あなたが死んで、悲しむ人はいないの?」
いる、と答えればそのまま説得に入って、いないと答えたら、私が悲しむと返そう。
めまぐるしく頭を働かせていたら、瀬戸生吹が動いた。