溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
壁の時計を見ると、午後一時半を回ったところだった。仙台なら東京から新幹線で一時間半で着くはずだ。
私は窓際の席を見やった。空っぽのデスクを見て、そうだったと思い出す。部長は昨日と今日、静岡本社に出向いている。
頭の中がめまぐるしく回転し、いくつものルートのなかから最善策をはじき出す。
「芽衣ちゃん、支度して」
「え?」
「仙台に行くから。ネットで新幹線を予約……ううん、券売機で直接買ったほうが早い」
「え、でも」
「今から出れば十七時に間に合うから。ほら、印刷所に連絡して」
私は受話器を取った。野村くんの会社携帯を呼び出し、留守番電話に今日やるべきことの確認と指示を吹き込み、「何かあったら携帯に連絡ください」と言いおいて電話を切る。
ロッカールームからジャケットを取り出すと、となりで芽衣ちゃんが青い顔をしていた。風が吹けば飛んでいってしまいそうな様子に、私は強く言う。
「芽衣ちゃん。ミスは誰にでもあることだよ。重要なのはその後の対応なの。もちろん、普段からミスしないように心がけることは大切だけど……」
彼女の丸まった背中を、ばん、と叩いた。
「今できることを、精一杯やるの」