溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
差し出した菓子折りを受け取って、アイビーマートの創業者、相川社長は人の好さそうな顔を緩めた。
「いいよいいよ。間に合ったんだし。それにきれいなお嬢さんがふたりも来てくれたんだから」
私たちに応接ソファをすすめて、相川社長は事務員風の女性にお茶を出すように指示する。
事務所には彼女と、数人の男性がいるだけだった。あとの人は倉庫で働いているのだろう。
壁には新商品のポスターや手書きの月間目標など、いろんな物が貼られて一見ごちゃついている。
「小さな事務所でしょう」
社長が私の目線を追って言った。
父親の年代に近い白髪まじりの彼は気さくそうだけれど、何十人という社員を抱えている経営者に変わりはない。優しげな目の奥には、物事の真意を見据えるような鋭さがある。
「老朽化も進んでるからね、そろそろ新社屋をと考えてるんだけど、ここも愛着あがってなかなか踏み切れないんだ」
社長が私と芽衣ちゃんに順番に笑いかける。彼女は緊張のためか一言もしゃべらず、事務所に足を踏み入れた瞬間から頬をこわばらせていた。
「アットホームですね」
探るような目を返され、私はあわてて付け加える。