溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
好きな会社で働きたいなら一人暮らしは許さない、と杏子さんから言われたらしい。
彼女なら、電話ひとつでせっかくもらった内定を取り消すことができるかもしれない。それを恐れた瀬戸くんは、やむを得ず条件をのんだ。
がちがちに固められたコンクリートの中で生きてきた彼が、唯一自力で辿りつくことができた場所。それがあの会社なのだという。
「俺は、レールの上から外れたいんだよ」
「だから、お母さんが選んだ相手じゃなくて、私と……」
「悪い、こんなことになって」
小路の真ん中で、彼は立ちどまった。向き合うと私の手をきつく握る。
「巻き込んだ形になってすまなかったと思う。でも俺は本気だから」
瀬戸くんがまっすぐ私を見下ろす。黒い瞳は真剣そのもので、今にも吸い込まれそうだ。
「見合いを断りたいからじゃない。俺は昔から光希が好きだったし、見合いの話がなくても光希を選んでた」
指先が絡んで体温が溶けていく。彼の手の力強い感触に、呼吸を忘れそうだった。