溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「だから、屋上から飛び降りようとしたの……?」
月明かりの夜に見上げた五階建てビルの屋上。彼のシルエットを見つけたときのことを思い出す。
あのとき私が行くのがもう少し遅かったら、彼は今、ここにいなかったのだろうか。
ふいに寒気に襲われて毛布を握りしめた。
彼は今もまだ、危うい橋の上に立っているの? 私と一緒にいることを生きがいだと言ってくれたけど、飛び降りたい気持ちはなくなったの?
暗闇がそっと忍び込むように、不安が押し寄せたとき、
「光希」
はっと息を呑む。瀬戸くんがいつのまにか目を開いている。薄闇のなか、わずかな光を集めた白目だけが明るい。
「起きてたの?」
「ああ。……そっち行っていい?」
「え……でも」
「今だけ」
強く言われてうなずくと、彼は身を起こし私の布団に潜り込んできた。
狭いベッドだ。私が壁際に寄っても身体は触れ合ってしまう。気恥ずかしくて背中を向けていたら、するりと手が回り込んできてすっぽりと抱きしめられた。密着したところから温もりが伝わって、心臓が騒ぎ出す。
「せ、瀬戸く」
「光希に、謝らなきゃいけないことがあるんだ」
「え……?」
私の頭に顎を乗せるようにして、彼は話し始める。