溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「あれって」
「新規サービスの企画書だよ。俺、本当は営業じゃなくて企画に携わりたくて、仕事に疲れたときに気分転換もかねて勝手に企画書書いてたんだけど、あの日、なんだか急に、ぜんぶが嫌になってさ」
印刷した企画書で紙飛行機を作り、屋上から飛ばした。
彼は自暴自棄にはなっていたけれど、飛び降りようとしていたわけではなかったのだ。そこに、息を切らせて私が現れた。
「いきなり話をきいてくれませんかって叫ぶから、何かと思ったよ」
くすくす笑われて、身体を丸める。あのときの自分を思い出し、恥ずかしさに頬が燃えた。私は相当必死だった。でもまさか、早とちりだったなんて。
「勘違いしてるなってすぐ気づいたけど、正直言って嬉しかった。俺はずっと見てたけど、光希は俺のことなんて眼中になさそうだったから。そんな俺に対して、必死で声をかけてくれてさ」
いつだかの瀬戸くんの言葉が思い出される。
――運命ってやつを信じてみようと思って
「だから俺はとっさに演じたんだ。激務を苦に飛び降りようとする営業マンの役をね」
背中に回された手に力が込められる。硬い胸に押し付けられて、密着度が高まった。瀬戸くんの声が、かすかに震える。
「騙すような真似して、悪かった」
すがりつくように抱きしめられて、苦しいくらいだ。私は彼の背に腕を回し、子供をあやすみたいに広い背中をさすった。
「よかった……」
彼の肩がぴくりと動く。
「怒らない、のか?」
くぐもった声が聞こえて、私は彼の胸に額をつけた。