溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
「びっくりはしたけど、怒ってなんかいないよ。それよりも、瀬戸くんが自殺を考えてたんじゃなくてほっとした」
本当はずっと怖かった。
一度死のうと考えた人は、きっとその原因が取り除かれるまで完全に心が救われることはない。
時間が解決する段階に行くにも、それが過去の出来事になっている必要がある。
現在進行形で激務に追われ母親との確執が続いている瀬戸くんは、きっとずっと苦しいままだと思っていたから。
「俺は今、幸せだよ。光希とこうやって一緒にいられて、これまで感じてた空洞が一気に埋まったみたいだ」
私もだ、と思った。瀬戸くんと抱き合っていると、私なんて、と卑下していた気持ちが吹き飛んで、充実感を得られる。満たされた気持ちになれる。
狭いベッドのなかは、ふたりぶんの体温が溶けてあたたかい。彼の心臓の音を聞きながら、私は目を閉じた。
手放したくない体温だと、強く思う。
いつのまにこんなに落ちてしまったのだろう。
オフィスビル五階の屋上に佇む彼を見つけたときから、私は瀬戸生吹に落ちる運命だったのだろうか。
あたたかな海の底に沈んでいくみたいに、ゆっくりと意識が落下していく。
心地いい心音はまるで波音のようで、母親の胎内にいるようにこの上ない安心感に包まれながら、私は静かに眠りに落ちた。