溺甘上司と恋人契約!?~御曹司の罠にまんまとハマりました~
* * *
私のマンションから都営線の最寄駅までは徒歩十分の道のりだ。朝の光でいっぱいの歩道を学生や勤め人が足早に歩いている。
もうすぐ十月だというのに日差しが強い。朝だからまだいいけれど、昼になればまだ汗ばむくらいの気温になる。緑の街路樹を眺めながら、葉が色づくのは当分先になりそうだと思った。
「あの、瀬戸くん」
「ん、なに?」
傍らを歩いていた彼が、驚いたように振り向く。いつものようにびしりと決めたスーツ姿なのに、どことなくよれて見える。
「手を……そろそろ」
「あ、悪い」
マンションを出たときから繋いでいた手を、彼はあわてて離した。自分の行動に気づいていなかったような反応だ。
そういえば今日は、起きた瞬間からぼうっとしていた気がする。朝食を食べているときも、身支度を整えているときも、瀬戸くんは心ここにあらずという感じだった。
「もしかして、寝不足?」
頭を掻いている彼を覗き込むと、さっと目を逸らされた。
「まあ……夕べは生殺しだったから……」
「え?」
「なんでもない。行こう」