蛇の囁き
九州某県の県境のとある静かな山村。
私は両親に伴われ、祖父母の家に帰省していた。
来春、大学受験に臨む私はこの帰省に気が進まなかったが、祖父母の残念がる顔を思い浮かべれば嫌と言える訳もない。
高速道路を走る車中で難解な英単語をひたすら唱えているうちに車酔いに見舞われた。
窓の外に広がる一面の茶畑を眺めながら吐き気の波を乗り越え、祖父母の家にたどり着いた。猟犬たちが一心に余所者に吠える。
昼食は焼肉であったが、依然として胃がむかついており、折角の祖父が育てた脂の乗った肉厚のそれを楽しむことができなかった。
少し外を歩いてくるね、と言い残した私は山村を散策しに出かけることにした。
田舎に住むとなるといろいろな不便に見舞われるだろうが、こうして偶に訪れるのは好きだった。
牛の飼料の臭いは鼻につくが、それも懐かしさを掻立てる要素だ。