蛇の囁き



 私たちはまた手を繋いで無言で階段を下りた。残りの階段が少なくなるたびに、心臓が潰されるような動悸に襲われた。

 階段を下りるのが怖くなって、加賀智さん、と私は彼の名前を呼んだ。彼は振り返らずに、私の手を黙って引いた。

 一番下の階段まで下りて、山の入り口にある鳥居の前まで来た。

 これをくぐれば、本当ならば今年中は彼と再び会うことができない。

 けれど、と私は彼を振り返った。
 明日、またこの鳥居をくぐって山に入れば、永遠に彼と同じ時を歩むことが出来る、と彼は言う。

 ただし、その代償に、人の世を捨て、家族を捨て、人間としての自分を捨てなければならない。


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