蛇の囁き




「加賀智さんは、狡いですね」


 人を惑わす彼の微笑みに、心が揺れる。

 宝石のように澄んだ瞳が悲しみの色を宿して私を見つめていた。そんな目を向けられた私がどう思うかも分かっているはずなのに、私の弱い所に付け込んで、唆して、私の喉元に牙を突き立てて噛み付き、離そうとしない。

 そして、私は逃げることもなくその痛みを愛おしく思い、自ら身を委ねる。

 加賀智さんは、狡い。
 彼は私の言葉に少し驚いたような表情を浮かべたが、蛇とはそういう生き物だからね、人間の尺度では生きていないからと言って可笑しそうに笑った。

 私のために私に狡いことをする彼も好きだった。


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