蛇の囁き
その瞬間、全身が痺れるような感覚が私を襲った。これが死ぬという感覚か、あるいは人が人ならざるものになるという感覚なのか──。一瞬の痛みに身を硬くしたが、その身体を誰かが強く閉じ込めるように抱き締めた。
私はその温もりを感じて笑った。
ああ、やっと───。
暫くして身体から痛みが引いたとき、夏芽、と彼がいつものように穏やかに私を呼んだ。
そして、明日だと言ったのに、と彼は苦笑した。
しかし、その顔にははっきりと喜悦の色が浮かんでいて、その瞳には燃え上がるような熱が篭っていた。これが彼の望んだ結果であるのは明らかだった。
加賀智さん、と私は愛しい蛇神の名前を囁いて口づけをねだり、蛇のように彼の白肌に歯を立てた。
───やっと手に入れた。
この蛇神(ひと)を。
(完)