蛇の囁き







 とんとん、と肩を叩かれた。

 私ははっとして顔を上げると視界が歪んでいた。いつの間にか寝ていたらしい。

 日の傾きは先ほどと同じくらいで、どうやら寝ていたのは少しの間だけのようだ。私は目を擦りながら肩を叩いた主の顔を見上げた。

「君、大丈夫? 具合でも悪いのか」

 低く落ち着いた男の人の声だ。腰を屈めて私を覗き込むその顔は逆光でよく見えなかったが、その声色から心配していることが伝わってきた。

「あ、いえ……寝てたみたいです」

「……はは、寝てた、か。 道のど真ん中で寝てたら危ない。いくら全然車が通らないって言ってもね」

 私は首を振って眠気を飛ばすと、立ち上がった。

 まだ彼は笑っていた。確かに真昼間から道路の真ん中で寝るなんて普通ではないだろうが、ここは田舎なのだ。そんなに笑わなくてもいいのに、と少し拗ねたような気持ちで私は彼を見つめた。

 彼はラフな格好をした穏やかな雰囲気を持つ青年だった。

 烏のような黒髪と女性のような色白の肌が目を引く。

 苦労を知らないようなその白い手からは、彼が農業従事者ではないことが窺えた。




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