君に溺れた
出会い
君と出会ったのは、薄暗くて、冷たい霊安室だった。

俺の名前は、一ノ瀬大地(いちのせ だいち)。

29歳。

大学を卒業して、国家公務員試験をパスして警視庁に入庁。いわゆるキャリア組。

今の階級は警部。所轄の課長を任されている。

霊安室にいたのは、女性が事件に巻き込まれ、遺族が女性を引き取りに来ていた。

彼女は、亡くなった女性の一人娘で、母と娘二人で暮らしていた。

まだ16歳だった。

彼女の名前は、宮島真凛(みやじま まりん)。

透き通るほど綺麗な白い肌。

髪は黒く艶があって、彼女が動くたびにさらさらとなびいていた。

大きな瞳はくっきりとした茶色をしていた。

唇は薄いピンク色。

何も言わない母親を前に、小柄な彼女は立っているのがやっとの状態だった。

体は小刻みに震えていた。

周りはスーツを着た大人ばかりで、彼女が怯えているのがわかった。

しかし犯人をすぐに特定したい刑事たちは、放心状態の彼女に色々質問していた。

彼女は必死に最近の自宅での母親の様子を答えていた。

彼女の話では母親に変わった様子はなかった。

しかしポストに宛名のない奇妙な手紙が入っていたこと、部屋の中の物の位置が微妙に変わっている気がしていたことを話した。

彼女の話からストーカーが考えられた。

まず、近所の聞き込みから捜査が始まった。

刑事たちが聞き込みに向かい、彼女はしばらくホテルで監視をつけることになった。

事件から3日後、アパートの隣人の男が指名手配された。

漫画喫茶に潜伏していた犯人を逮捕し、事情聴取したところ母親を最初から狙っていたわけではなく、娘の真凛の下着を物色していたところを母親に見つかり口論となり、犯行に及んだと話した。

自分のストーカー男に母親が殺されてしまった。

この事実を彼女が受け止められるだろうか。

事件の経緯を彼女と母親の親族に話した。

話をしているうちにどんどん彼女の顔が悲痛な表情になっていたのを感じていた。

すすり泣き始めた彼女の顔を直視できなかった。

話を終えてしばらく沈黙が流れた。

沈黙を破ったのは彼女だった。

彼女は一言、「お母さん、ごめんなさい。」と泣き崩れた。









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