君に溺れた
母さんとホテルのレストランに向かった。

真凛さんと初めてあったホテルだ。

親父が贔屓にしてるから、ホテルのオーナーもすぐに対応してくれた。

「今日はご家族でお食事ですか?お連れ様は先ほど到着されました。」

「え?」

母さんの返答に営業スマイルを見せていたオーナーの顔が一瞬曇った。

母さんも気づいたようだ。

「本日は夜景が見える特別席をご用意させていただきます。」

「いえ、到着されている方と一緒で構わないわ。後で主人も来るんでしょう?」

オーナーは俺達を別の席に案内しようとしたが、母さんは強引に俺達がいつも使う個室に向かう。

俺は嫌な予感しかしなかったが、母さんを止めることは出来なかった。

オーナーの制止を振り切って個室に入ると真凛さんがいた。

「え?」

「・・・」

真凛さんは俺と母さんを交互にみた。

俺は何も言えなかった。

母さんが体を震わせて話し出した。

「あの人に限ってこんなことはないと思っていたのに。まさかこんな若い子を。」

「奥さま、誤解です。私は」

「黙りなさい!よくも主人を。」

「違います。」

真凛さんが言葉を発した直後、母さんは真凛さんの頬を叩いた。

真凛さんはバランスを崩して床に座り込む。

「汚らわしい。主人とはもう二度と会わないでちょうだい。お金が欲しいなら差し上げます。いくら欲しいの?」

「母さん、そこまでしなくても・・・」

俺は真凛さんに駆け寄り手を差し出す。

「竜哉、この人と知り合いなの?」

「知り合いっていうか、母さんも一度会ってるじゃないか。入院したとき世話になった看護師さんだよ。」

「あ!あのときの!」

「真凛さん、立てますか?」

俺が差し出した手を母さんが振り払い、テーブルに置いてあった水を真凛さんにかけた。

「汚らわしい!竜哉にも手を出していたの?」

「母さん、誤解だよ。」

「竜哉は黙っていなさい。あなた、一体どういうつもり?主人だけじゃなくて竜哉にも。本当に汚らわしいわ。二度と主人と息子に会わないでちょうだい。早く出ていきなさい!」

「・・・」

「母さん、言い過ぎだよ。」

真凛さんは俺の手を引き離して立ち上がる。

全身濡れたまま、鞄を手に取り部屋を出ていこうと歩きだした。

その時、親父が慌てた様子で入ってきた。

「真凛!どうしたんだ?何でこんなに濡れてる?」

「・・・ごめんなさい。今日は帰ります。」

「何で?」

「あなた、ひどいわ。こんな裏切りを受けるなんてあんまりよ。」

「お前、何を言ってるんだ?」

「家族をほったらかして、仕事ばかりで。それでも信じていたのに、こんな若い愛人を作って、」

「!?」

「この人、竜哉にも取り入ろうとしてたのよ?汚らわしいわ。」

「真凛を悪く言うのはやめないか!」

「あなた、その子を庇うの?」

母さんが泣き始めた。

「・・・お前、誤解だよ。彼女は愛人なんかじゃない。彼女は私の娘だ。」

「!!!!」

「彼女は宮島真凛さん。お前と結婚する5年前に付き合っていた女性との子供だ。両親に反対されて、彼女は真凛を妊娠していたが、私の前からいなくなってしまった。6年前に真凛と再会してその時から正式に認知している。」

「そんな・・・あなた、何も話してくれなかったじゃない。」

「竜哉がまだ小さかった。お前は嘘がつけないだろう?お前の動揺は竜哉に混乱を与える。だから、竜哉が二十歳になるまでは黙っていようと思っていた。だが、真凛と竜哉が偶然に出会ってしまった。今日は今後のことを話すために真凛に来てもらったんだ。」


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