君に溺れた
「・・・。」

「どんな具合?」

「ひどい脱水と栄養失調。点滴して意識が戻ったらお粥を食べさせて。いきなり高カロリーなものはやめて、ゆっくり滋養のあるものを段階的に。」

「わかったよ。夜勤明けなのに悪いね。」

「いいよ。」

「・・・ここは?」

「気づいた?」

「私・・・」

「公園で倒れてたんだよ。ここは私のうち。こいつは息子の涼だよ。医者だ。」

「私、生きてますか?」

「あぁ、生きてるよ。そんなに簡単には死なせないよ。助けるのが医者の仕事だ。」

「・・・うっうぅ。私、一人でどうしたらいいかわからなくて。それで、死んだらお母さんにまた会えるかなって思って。うっうぅ。」

「辛かったんだね。でも私も親だからわかるけど、子供が自分を追いかけて三途の川を渡ろうとしていたら私は全力で追い返すよ。あんたのお母さんもきっとそうするはずさ。」

「うっうぅ。ごめんなさい。お母さん、ごめんなさい。」

私はそれから少しずつ体力を回復していった。

私を保護してくれたのは佐藤 雪野さん。

クリニックの看護師をしている。

毎日点滴をしてくれたのは、息子さんの涼さん。

大学病院で外科医をしている。

32歳で独身。

仕事が忙しくて彼女が出来ないって呟いてた。

雪野さんには私の事情をすべて話した。

雪野さんは私をここに置いてくれると言ってくれた。

まだ16歳の私は世間で生きていく術を知らない。

私は雪野さんの好意に甘えることにした。

雪野さんの家に居候させてもらいながら、アルバイトを掛け持ちした。

雪野さんに助けられて半年が経った。

雪野さんも涼さんもとても優しくしてくれた。

本当の家族のように接してくれた。

だから私は甘えすぎてしまった。

二人の優しさに。
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