君に溺れた
「一ノ瀬さん。」

「うん?」

「起きて下さい。」

「・・・もう少し。」

「遅れますよ。」

「あぁ、今起きる。」

彼女と暮らすようになって1週間が経った。

彼女は3時から新聞配達のバイトに出掛けて、6時に一旦戻ってくる。

僕と朝食をとって清掃のバイトに出掛けていく。

午後には戻ってきて、熱心に勉強している。

夜は一緒に夕食を食べて彼女の勉強を付き合う。

21時には彼女は寝るから俺は書斎で自分の時間を過ごす。

つい夜更かしして朝、彼女に起こされる。

平和で穏やかな日々に何の不満もない。

「んなわけあるかよ。」

「何か悪いか?」

「悪くないけど、良くもないだろ。俺があげたゴムは?あれは使わなきゃ意味がないんだよ。お前、自分がいくつかわかってる?30歳で童貞っていうことに少し危機感をもったほうがいい。」

「・・・声が大きいよ。」

「恥ずかしさがあるなら、とっとと大人になれ。」

「・・・」

「お前、もしかしてイ・・・」

「違う。」

「じゃあ何で?」

「彼女といると幸せを感じる。実際一緒にいて反応することもあった。でもきっかけがない。どう進めればいいかわからなくなる。」

「きっかけは待ってるもんじゃなくて、作るものだし、どう進めたいのかお前の頭が考えてくれる。あとはお前が彼女を傷つけない程度に理性をうまくコントロールして行動するんだよ。本来、セックスっていうのは、本能に任せるもんだよ。反応するってことは、本能のスイッチを押したんだ。あとは自分を信じろ。」

「お前、この手の話になるとすごいな。」

「お前が鈍すぎなんだよ。明日は土曜日だろ?新聞の配達もなければ、掃除のバイトもない。絶好のタイミングだ。」

「あぁ。」

「大地、本能のままいけ。」
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