君に溺れた
彼女に名刺を渡して数日後、彼女から電話が掛かってきた。

相談したいことがあると言っていたが、待ち合わせの朝から俺はそわそわしていた。

女性と二人きりで会うのなんて何年ぶりだろう。

待ち合わせた駅前に行くと彼女はもう居て、ぼんやり立っていた。

私服の彼女と会うのは初めてだった。

Tシャツにジーパン、髪を一つに縛りキャップを被っていた。

俺を見つけると彼女はキャップを外して軽く会釈した。

カフェに入って俺はコーヒーを注文し、彼女はオレンジジュースを注文した。

折をみて俺から話を切り出した。

「相談があるって電話で言ってたけど、何かあった?」

彼女は飲みかけたオレンジジュースをテーブルに置いて俺をまっすぐに見た。

化粧もしていない彼女だが、なぜか色気を感じる。

今は幼さもあるけど、10年経ったら男は放っておかないな。

そんなことを考えていたら彼女がゆっくり話し始めた。

彼女の話をまとめると、母親の兄が多額の借金を抱えていて、母の保険金を貸してほしいと言ってきている。

16歳の自分には権利はあってもどうすればいいのかわからないので、知り合いの弁護士を紹介してほしいというものだった。

俺は彼女に知り合いの弁護士を紹介できると返事をした。

彼女はそれを聞いて初めて笑顔を見せた。

彼女の笑顔を見たのは初めてだった。

いつも落ち着いて大人びて見える彼女の笑顔はとても可愛らしく釘付けになってしまった。

そんな俺を彼女は不思議そうに見ていた。

俺は慌ててコーヒーを飲もうとしてコーヒーをこぼしてしまった。

彼女はすぐにハンカチを差し出してくれた。

「申し訳ない。洗って返すよ。」

「お気遣いなく。」

彼女と別れると俺はすぐに旧友に電話した。

弁護士をしている友人は何人かいる。

俺の女性遍歴を知る友人の一人で、出来れば関わりたくないが、弁護士の腕は一流だ。

土曜日の昼に電話して暇な奴ではないが、滅多に電話しない俺が電話したので心配していた。

夜、指定されたバーで5年ぶりの再会を果たした。

「久しぶりだな。」

「あぁ。急に悪いな。」

「いや。会いたくない俺にわざわざ電話するほど大事な案件なんだろ?」

「・・・会いたくないとは思ってない。」

「うそつけ。中学からの腐れ縁だろ。お前の考えてることならわかるよ。昔はガキだったんだ。からかいすぎたことを反省してるんだよ。」

「わかってるならいいよ。」

「ははっ。相変わらずつれないね。で、どんな案件なの?」


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