君に溺れた
真凛がいなくなって6年が経った。

俺はスマホの画面に写る真凛の笑顔に胸が痛んだ。

いい加減忘れないといけない。

わかってるけど、いつもどこかに真凛がいるんじゃないかと探してしまう。

6年経っても俺は真凛に溺れている。

どうしたらいい?

答えが出ないまま時間が過ぎる。

俺はホテルのラウンジを出て、披露宴の会場に向かう。

自分の席をみつけ愕然とした。

「大地、お前大丈夫か?」

後ろから和島が声を掛けてきた。

「・・・」

「この席次は何かの罰ゲームかな。吐かないことを祈るよ。」

「・・・あぁ。祈っててくれ。」

俺と和島、中学からの級友が3人。

すぐ前には新婦の友人だろう。

若い女の子が俺たちを値踏みするように見ていた。

目を合わせるな。

平常心。

俺は自分の席に座り、ひたすら祈った。

栗田の結婚式で、醜態をさらすわけにはいかない。

和島は俺の隣で不安げに俺の様子をみている。

「あのー皆さんは栗田先生のご友人なんですか?」

「・・・」

「あのー・・・」

「あぁ。そうだよ。栗田とは中学からの腐れ縁なんだ。」

「そうなんですか~。中学の頃の先生ってどんな感じでした?」

「あのまんまかな。」

和島が女の子たちの質問にスマートに答えている。

俺は完全に存在を消していた。

そのとき、女の子が言った一言に驚き声を出してしまった。

「ねぇ、宮島さん遅いね。」

「さっき連絡きて、○○さん急変したらしいよ。佐藤先生が処置して今から一緒に来るって。」

「そうなんだ。ねぇ、佐藤先生って普段すごいクールだけど、宮島さんにだけは優しいよね?」

「私も思った。宮島さんに聞いてみたけど、昔お世話になった人で恋人じゃないって。」

「でも佐藤先生は絶対、宮島さんに気があるよね?」

俺は耳を疑った。

同姓同名!?

和島のほうを見ると、和島も驚いている様子だ。

「あっ。来た来た。宮島さんこっち!」

俺は振り返る。

間違えない。

真凛だ。




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