君に溺れた
真凛の部屋は2階の角部屋で、1LDK

部屋の中はシンプルだが、随所に女の子らしい小物が置いてあった。

「どうぞ。」

「あぁ。」

「今コーヒー入れますね。」

「ありがとう。煙草いい?」

「どうぞ。灰皿ないので、これで。」

「悪いな。」

真凛は、俺をソファに座らせてキッチンに向かう。

コーヒーを2つ持って俺の斜め横に座りこんだ。

「・・・コーヒー飲めるようになったんだな。」

「あっはい。ミルクを入れますけど。」

真凛は、にっこり笑って話す。

「煙草、吸うようになったんですね。」

「あぁ。なかなかやめられなくてね。」

「そうですか。」

「真凛・・・」

「?」

真凛のスマホが鳴る。

「出ていいよ。」

「すみません。」

真凛の様子だと相手は佐藤っていう医者だろう。

あの時、俺が腕を掴まなかったら真凛はあいつのところに行っていた。

あいつも気づいたはずだ。

「もしもし?さっきはごめんなさい。少し飲みすぎてしまって、今マンションに戻ってきました。はい。大丈夫です。えっ?今から?でも・・・!?あのまた掛けます。」

俺は玄関に向かって歩き出した。

真凛は慌てて電話を切り追いかけてきた。

「あの・・・」

「・・・帰るよ。」

「えっ?」

俺は靴を履いてドアに手をかける。

「行かないで下さい。」

真凛が俺のスーツの裾を掴む。

「ずっと会いに行きたかったんです。でも、大地さんの迷惑になるのは絶対に嫌だった。だから」

「それで、勝手に出てった?」

「・・・」

「俺がどれだけ苦しかったかわかる?」

「・・・ごめんなさい。大地さんがもしいなくなったら、私はまた1人になっちゃう。その時に何もなかったら、私は今度こそ生きていけなくなっちゃう。」

「俺がいなくなるってどうしてわかる?」

「・・・お母さんが突然いなくなったとき、永遠なんてないってわかったんです。幸せはずっと続かない。幸せだった分だけ辛いこともある。その時に自分の足で歩けるようにしたかった。大地さんとずっと一緒にいたかったけど、守ってもらうだけじゃなくて、私も大地さんを守れるようになりたかったんです。」

「真凛・・・」

「大地さんの隣を堂々と歩きたい。居候じゃなくて、恋人だって胸を張って言えるようになったら、会いに行こうと思ってました。」

「その時に俺に恋人がいたらどうする?結婚してたらどうする?」

真凛は俺の腰に腕を絡ませて言った。

「・・・結婚してたら、もう一度私を好きになってもらえるように誘惑します。」

「・・・ふっ。どう誘惑するの?」
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