君に溺れた
最上階のスイートルームで待っていると、40代後半の男性が入ってきた。

「君が宮島真凛さん?」

「はい。」

「すみれさんによく似ている。」

「お母さんのことを知ってるんですか?」

「あぁ、私がずっと恋している人だ。」

「!?」

「お母さんが銀座で働いていたことは知ってる?」

「はい。お父さんとそこで出会ったと聞きました。」

「真凛さん、お母さんは父親について何か言ってたかな?」

「名前は教えてくれませんでした。ただ、お母さんは私にいつかお父さんは私たちを迎えに来てくれるって言ってました。」

「そうか。」

「あの・・・あなたは私のお父さんですか?」

「それについては、確定ではありません。その可能性が高いということです。ですので今日DNA鑑定をしていただきます。」

「!?」

「宮島さん、お母さんが銀座でホステスをしていたのはご存じですね?」

「はい。」

「お母さんの常客は多数いました。中には有名な議員先生も足しげく通っていたそうです。ですから父親候補は多数いるということです。」

「!!私、帰ります。」

「宮島さん、あなたが正式に娘と認められた折りにはそれ相応の責任はとる準備をしております。」

「!?」

「少し調べさせて頂きました。お困りのことと思いまして。」

「あなたには関係ありません。帰ります‼」

「真凛さん、うちの秘書が失礼なことを言って申し訳ない。優秀だが男女のことには不慣れなようだ。」

「・・・お母さんは確かにホステスでした。でもだからって複数の男性と関係をもっていたなんて何かの間違えです。だってお母さんは私にお父さんの話をたくさん聞かせてくれた。お父さんがロックが好きなこと、甘党でお母さんの作ったプリンを一度に6個食べたこと。お母さんはお父さんの話をするとき本当に可愛くて、娘の私が照れるぐらいお父さんを愛してた!だから私のお父さん候補なんてない。お父さんはこの世に一人だけなの!DNA鑑定なんて必要ない。お母さんのことを信じられない人は私のお父さんじゃない。帰ります‼」

私は一気に捲し立てて歩き出す。


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