君に溺れた
「まり~ん、今日帰りに卵買ってきてくれる?」

「えー私、今日はユキの家に行こうと思ってたのに。」

「ユキちゃんと遊んでからでいいから。お願いね。」

「は~い。じゃあ行ってきます。」

「真凛、今日もー」

「今日もとびっきりの笑顔でね。でしょ。もう毎日毎日言わなくてもいいってば。」

「どうしたの?そんなにイライラしちゃって。可愛い顔が台無しよ。」

「別に、」

「あー何かあるね。」

「何もないです。」

「怪しいなぁー。」

いつもの朝だった。

私は学校に行って、お母さんは仕事に行った。

卵を頼んだのは、きっと私の大好きなプリンを作るためだったと思う。

お母さんは、私を大事に育ててくれた。

いつも笑顔で一生懸命で、私はお母さんが大好きだった。

お母さんは、お父さんの話しもよくしてくれた。

お父さんの好きな言葉、本、花、食べ物。

お父さんの話をしてるときのお母さんは、可愛くてお父さんのこと大好きだってよくわかる。

今は一緒に住めないけど、きっと迎えに来てくれる。

お母さんは信じていた。

お母さんとあの家でお父さんを待ちたかった。

でも、

お母さんと話せたのはあの朝が最後だった。

学校に警察から連絡がきて、私は訳がわからないまま霊安室にいた。

周りはスーツを着た男の人ばかりで、立ってるのがやっとだった。

警察官は最近のお母さんの様子を聞いてきた。

最近のお母さんの様子?

いつもと変わりなかった。

ただ、ポストに『いつも君のことをみてる。そばにいるよ。』と書かれた手紙が届いたこと、私の部屋に置いてある本や小物の位置が変わっていて、お母さんが勝手に動かしたか聞いたらお母さんは知らないと言っていた。

それから警察官は集まって話をしているようだった。

私はお母さんの横で必死に涙を堪えていた。

しっかりしなきゃ。

お母さんがいつも言ってたじゃない。

辛いときほど、笑いなさいって。

真凛の笑顔がお母さん大好きよっていつも言ってくれた。

お母さん・・・

「・・・座って。」

「えっ?」

「これに座っていなさい。」

「・・・ありがとうございます。」

一ノ瀬大地さん。

私が立ってるのが限界に近いことを察して椅子を差し出してくれた。

周りの警察官に色々指示してる。

きっとえらい人なんだ。

私はしばらくして、婦警さんに連れられてホテルで待機することになった。

犯人が捕まるまで家には帰れない。



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