放課後ニヒリスト
オトナって、マジでわかんない。
母さんを細切れにしてくれた父。
姐さんをバラバラにしてくれた父。
そして、うっかり私を殺し損ねた父。
彼は高い高い壁の向こう側で、すでに死んでしまった人となっているのだろうか。
スプラッタな現状を、当時10歳だった私は虚無な目で受け入れた。
リビングの隅で、私は膝を抱えながら姉の頭部を見つめていた。
あーあ、折角綺麗な顔だったのに。
血まみれじゃん、もったいない。
彼女の頬に付いた血を私は親指で伸ばし、母の肉片の転がる床に寝そべった。
父は血まみれになった手で私の頭をつかみ、家族を殺した手で抱きしめ、ごめんな、ごめんな、と罪滅ぼしのように何度も呟いた。
他人事みたいに全てを見ていた、それは極めてアブノーマルな5月15日だった。
私の首を絞めようと伸びた父の手は次の瞬間、鉄の輪の内に収まっていた。
ケーサツだ。オジョーチャン、もう大丈夫だよ、なんて言ったのは、生え際後退の始まって少しハゲたおっさんだった気がする。