放課後ニヒリスト
たまにさ、と、洋楽CDのブースで見つけたレン先輩は言った。
「おれ、アンちゃんが中1に思えないときがある」
「なんだそりゃ」
「だって、いろいろ難しいこと知ってるじゃんか」
フェルマの定理なんて、生きてるうちに絶対使わないぜ?
そう言って笑った彼の顔を見て、私は顔をそらした。
うん、そーかもね、と零すように呟いて、私は適当にCDを取ってみた。
嫌いなアーティストの、アルバムだった。
時たま、記憶とは途轍(とてつ)もなく恐ろしいものだな、と思うことがある。
見たこともない景色を思い出したときなんて、特に。
だって、私の父も母も立派に健在するし、私には姉はいない。
姉どころか、兄弟もいとこもいない。
ちなむと父と母は、仕事の関係で海外に住んでいる。
3年前のそれは、やけにはっきりとした景色だった。
白昼夢なのか、何なのか。
とにかくそれは、残虐な映画でも平気で、残酷な童話を好んで読んでいた私を恐怖させるには十分だったらしい。
毎年、というより、毎日それを思い出してしまうのだ。