放課後ニヒリスト
マンションのエレベーターホールに入ると、誰かに踏み潰された虫の死骸が落ちていた。
アンタも一人だったの?
語りかけども、虫は答えなかった。
つまらないから、虫との会話は諦めて私は5階へ向かうエレベーターに乗り込んだ。
靴を脱ぎ、台所にコンビニの袋を置き、手を洗う。
自分の部屋にあるパソコンの電源を入れて、起動するまでの間に揚げ出し豆腐を電子レンジにかける。
ビニール袋をゴミ箱へ押し込んで、炊飯ジャーに残っていたご飯を茶碗に盛っていると、電子音が響く。
温まった豆腐と、白米と、DVDをもって、私は自室へ。
両親が殆ど家にいないことから、私の部屋は充実していた。
小型の冷蔵庫、冷暖房完備、自分専用のパソコン、薄型液晶テレビ、DVDデッキ、各種ゲーム機、CD・MD・ラジオ対応コンポ。
父と母の部屋には一ヶ月に一度の掃除の時にしか入らないけど、その時についさっきまでそこに誰かがいたような感覚に陥る。
本当は私以外はいないのに。
リビングと、台所と、風呂場と、自室。それ以外からは生気が感じられなかった。
出しっぱなしになっている折りたたみ式の机に夕飯を置くと、メールフォルダーを開いた。
案の定両親からのメールが来ていた。
二人とも、私の勉強のためだといって、必ずフランス語と英語のどちらかでメールを打つ。
もちろん私も送られてきた言語でメールを返す。
今日はフランス語だった。