放課後ニヒリスト

そういえば、フランスには蝉がいないらしい。

私たちは毎年あの騒音に悩まされてるって言うのに、パパもママもずるい。

ああ、どうやったらあの鳴き声が気にならなくなるのだろう。

いや、それよりもこれから来る梅雨の鬱陶しさの方が・・・








ぼんやりとくだらないことばかり考えていると、後方から、がしゃん、と音がして、私は驚いて窓の外から教室に意識を戻した。


「あ、悪ぃ・・・」

案の定、ケイ先輩がジュースが半分ほど残っていた缶をひっくり返してしまったらしい。


「あーあ、だから右側に物置くなって言ってるのに・・・」
「見えないんだからさ・・・」
「ごめ、」














彼は、右目が義眼だった。




だから右半分がよく見えないらしく、しょっちゅう廊下で人にぶつかったり、柱に激突したり、ドアに右半分を打ち付けたりしている。


並んで歩く時は、それを気にして私たちが右側を歩いてあげるけど、一人のときはよく怪我している。



「ん、雑巾」

どうせ転校した人の机だし、本当はほっといてもいいんだけど一応2年の教室の机だったから、私は雑巾を2枚つかんで机の上に置いた。


被害は机の上だけで済んだみたいだった。




「あー、プレッツェルのファンタ漬けが・・・」
「うわ。あんた食べてみたら?」


私がそう提案すると、リョータ先輩は口にそれを咥え、暫くしてから顔をしかめた。



「なんか、甘くてしょっぱい」
「きもっ」
「ひでー・・・」




爆笑しながら、私たちは甘い悪臭を放つ雑巾をゴミ箱に投げ入れた。
どうせぼろぼろだったし、いいよね。
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