放課後ニヒリスト

知らない。

知りたくない。

知る必要がない。




そんなものは子供な私たちには沢山ある。


それなのに、うっかり知ってしまった時ほど、ショックなことはない。









特撮戦隊の存在とか、魔法が使えないこととか、サンタの実態はパパだったとか、「ニヒリスト」達のこととか。


自ら知らせようとはせず、私たちはそのせいでお互いを傷つけてしまうこともしばしばあった。










ケイ先輩の右目のことも、リョータ先輩の彼女のことも、その一つ。




初めて先輩の目のことを知ったのは、つい2週間前だったと思う。













その日の放課後も、ふざけながら私たちは廊下を歩いていた。



くだらないことで小突きあい、爆笑して。


でも、アキラ先輩がユウをつついた時、アイツがよろけてケイ先輩にぶつかったら、先輩が想いっきり転んでしまった。










大丈夫?と手を差し出そうとしたとき、足の間を何かが転がっていったのに気付いた。
転んだ拍子に、ごろり、と彼の右の眼窩から球体が落ちたのだ。





冷たい床をころころと這っていき、壁に当たって止まったそれは、紛れもなく眼球だった。



「、いっ」





叫ぶ寸前で、ケイ先輩が何事もなかったかのように立ち上がり、それを軽く拭いてから自分の空洞にはめ込んだから、さらにビックリ。








「俺、小さい頃に事故で目ぇ失くしたんだ」








へら、と笑いながら、彼は放心している私に教えてくれた。



他の5人は知ってたみたいで、一人でビックリしていた自分が馬鹿みたいだった。





彼は笑っているけど、笑っていられるほど気楽なことではないことぐらい、私にも判った。




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