LOVE物語2
ーside遥香ー

心の中のモヤモヤは消えたけど、これ以上深く関わっていいのか不安になる。

深く関わって失ってからが怖い。

思い出が深ければ深いほど、心に開く傷は深くて大きい。

今までは、人の優しさに距離を置いていたけど尊の優しさには距離を置きたくない。


生半可な気持ちじゃないから信じていいとは思う。

でも、尊には私じゃなくてもっといい人もいるはず。

それを、私が縛り付けていい訳がない。

いくら、私に気持ちがあったとしても私は尊の幸せは奪いたくない。

喘息があるのに。

一緒になるとなったら、たくさん迷惑かけちゃうのに。

私が病弱だから、私は尊を幸せにすることはできない。


今までに、本気な恋なんかしてこなかったからな…。

この体だから、私は恋をしたらいけないって思ってた。

だから、遊びくらいがちょうどいい。

ずっとそう思ってた。

だけど、尊に出会って本気で私にぶつかってきてくれて人の温かさや愛情を知った。

気づけば尊が大好きになっていた。

こんな気持ち初めてで、どうしていいのか分からない。

「遥香、帰ろうか。」

「尊、仕事終わった?」

「うん。終わったよ。いつもより少し遅くなってごめんな。」

「え?」

私は携帯を開き時間を見た。

気づけば、もう夜の8時。

いつも診察は6時に終わる。

「時間忘れるくらいぼーっとしてたな?」

「いや。まぁ、そんなとこ。」

「遥香、明日俺も行こうか?」

「明日…?」

「明日、試験の合否発表だろ?」

あ!
すっかり忘れてた。

「遥香、まさか忘れてた?」

私は何も言い返せなかった。

だって、忘れてことは事実。

色んなことを考えていたから合否発表を考える余裕がなかった。

「どうしよう、緊張してきた。」

緊張と不安が一気に私を襲う。

「忘れてたくらいがちょうどよかったかもな。思い出させてごめんな。」

「尊は謝らなくていいんだよ。」

「きっと大丈夫。」

そう言って尊は私の頭を撫でた。

「帰ろうか。」

「うん。」

それから、家に帰宅して次の日を迎えた。

私は今、パソコンとにらめっこして1時間は経つ。

だって、この先をクリックすれば合格か不合格かが明らかになる。

「遥香、もう1時間は経つよ?大丈夫か?」

大丈夫。
あれだけ勉強したんだから。

心を落ち着かせるために深呼吸をした。

受験番号を入力して確認をクリックする。

はぁー…。

目をゆっくり開けると…

300129 白石遥香

『合格』


私は頭が真っ白になって何も考えられなくなった。

本当に!?

私が!?

「どう?」

「尊…見て。本当にこれ私の結果?」

本当に合格なのか、尊に見てもらった。
私の勘違いじゃないか確認するために。

「合格!遥香、お前受かったよ!おめでとう!あぁ…本当によかった。」

やっと、本当に自分が合格したことを実感した。

「よく頑張ったな。本当に頑張った。」

尊は抱きしめてくれた。

心の重荷がやっと降りた気がする。

安心している私に尊が、

「遥香、お前トップ合格だよ?」

「え!?」

私は、下の方に書いてあった詳細を見ていなかった。

結果だけで頭がいっぱいいっぱいだったから。

「ほんと!?」

再びパソコンの画面を見る。

そこには、

『あなたは、880点で合格者の中の1位です。新入生の代表挨拶をよろしくお願いします。もちろん、断ることも可能です。おめでとうございます。』

「遥香!本当すごいよ。900点満点だったよな。本当におめでとう。」

トップ合格は嬉しいけど、新入生代表挨拶なんてやりたくない。

「…。新入生代表挨拶とか断ってもいいかな。」

「え?」

「だって、もうあんな思いたくさん。」

「新入生代表挨拶したことあるのか?」

「高校の時。あの時、舞台にあがってすごい緊張したの。だから、呼吸ができなくなってみんなの前で倒れたの。それで私は、保健室に連れていかれた。だから、やりたくない。」

「遥香…。まぁ、やりたくないなら断ってもいいと思うよ。」

「断ってもいいかな…」

「うん。そこまであがり症ならやめておいた方がいいと思う。でも、少しでもやってみたいって思うなら再挑戦してみるといいよ。」

「やりたいとは思えない。」

「断りの電話入れておこうか?」

「お願いします。」

「分かった。」

尊は、大学に電話してくれて私の代わりに断ってくれた。

「ありがとう。」

「うん。それより!本当におめでとう!今日は2人でお祝いしよう!」

「お祝い?」

「あぁ。遥香、何か食べたいとかあるか?」

「んー…」

食欲は少しずつ戻ってきた。
強いて言うなら…

「尊のハンバーグ食べてみたい!」

私は、今までに誰かの手作りハンバーグを食べたことがない。

この間、ラジオを聞いていて耳にした。

ハンバーグは親の愛情が現れるって。

ピーマンが嫌いな子供に、細かく刻んだピーマンをハンバーグに混ぜたら食べれるようになった。

お母さんは、子供の栄養バランスを考えて料理の工夫をしている。

それが、親の愛情の表れ。

だから私は、食べてみたくなった。

愛情とか込められてなくても誰かの作ったハンバーグが食べたくなった。

「ふふ。分かった。」

にっこり笑って私の頭を撫でてくれた。

「さっ!今から買い物に行こう。」

「うん!」

スーパーで、一緒に買い物をすることがすごく幸せに感じる。

2人で並んで歩くことがこんなにも幸せって思う事はないよ。

車で15分のスーパーに着いた。

スーパーの駐車場に見覚えのある姿があった。

「お母さん…」

「え?」

尊は私の視線の先を見た。

「大丈夫か?」

「うん。」

「遥香!」

「君が遥香ちゃんだよね?」

「あ、あなたこの前私の病室に来た…」

「岩佐弘樹です。この間は、勝手に病室に行ってごめんね。」

「だあれ?」

「この人はね、空と乃愛のお姉ちゃんだよ。」

「お姉ちゃん!」

小さい2人に抱きしめられた。

抱きつかれたって言った方が正しいのかな。

『お姉ちゃん』か…。

複雑な気持ちだけど、こんなに可愛い妹と弟が出来て嬉しい。

「こんにちは。白石遥香です。」

「はるちゃん!可愛い!いい匂いする!」

こっちが乃愛ちゃん。
黒と白のチェックをしたワンピースを着ている。

「はるちゃん!僕の彼女なって!」

こっちが空君。
まだ2歳なのにどうしてそんな言葉を知っているんだろう。

「遥香、よかったな。」

「うん。でも、2人とも喘息は受け継いでない?」

「遥香の喘息はお父さんの方じゃなかった?」

「そうだけど、私もお母さんと血がつながってるわけだから…」

「大丈夫だよ。健康ですよね?」

「はい。」

よかった。
こんな可愛い2人に辛い思いはしてほしくない。

「だけど、一応卵と海老のアレルギー検査はした方がいいかもしれませんね。遥香のアレルギーはどっちからかは分かってないので。」

「アレルギー検査は先日してきました。乃愛に卵アレルギーが見つかって、空が海老アレルギーでした。食べさせる前に見つかったんです。遥香のおかげだよ。」

「2人とも半分ずつ受け継いだんだね。」

私はすごく申し訳ない気持ちになった。

「乃愛、お姉ちゃんと一緒ので嬉しい!」

「僕も!」

まだ2歳の2人に気を遣わせてしまった。

「一緒に頑張ろうね。」

「「うん!」」

「あ、もうこんな時間。ごめんね、遥香。もうそろそろ仕事始まっちゃうから帰るね。」

「あ、分かった。」

「遥香、今度家に遊びにおいで。」

「え?」

「来て!遊びに!」
「お姉ちゃんにお部屋見せたい!」

元気にはしゃぐ乃愛ちゃんと空君。

2人と遊びたいけど、家に遊びに行くなんてまだできないよ。

だって、私だってこの人の娘。

愛されて幸せに暮らしている家に遊びに行っても、私は受け入れられる自信はない。

さすがに、まだそこまで大人になれない。

「ごめんな、遥香はちょっと訳あって乃愛ちゃんと空君のお家には行けないんだ。でもね、家に来てくれれば遥香と遊べるよ。」

何も言わず、ずっと俯いていた私の異変に気づいた尊は、私の気持ちを察したのか乃愛ちゃんと空君ががっかりしないようにそう言ってくれた。

「本当に!?」
「遊びに行ってもいいの!?」

「いいですか?岩佐さん。」

「えぇ。ぜひ。」

「じゃあ、遊びに来たい時連絡してください。遥香の予定が空いている日を見て日にちを決めましょう。」

「ありがとうございます。」

「「ありがとう!おじさん!」」

おじさんって。
尊はまだ20代なのに。
面白くてちょっと笑ってしまった。

「遥香、おじさんって言葉に笑うな。」

「ごめん。」

「じゃあ、失礼します。」

「またね、空君。乃愛ちゃん。」

「「ばいばい!お姉ちゃん!」」

「遥香、話したい時連絡して。いつでもいいから。」

「え?」

「またね、遥香。」
「遥香ちゃん、喘息の方お大事にね。」

「ありがとうございます。」

「尊と、店内に向かった。」

最後の母親の言葉が気になった。

もしかして、私の考えていることが顔に出てるのかな。

これからも尊と一緒にいていいのか。

その悩みを母親に悟られたような気がした。

母親の勘ってやつなのかな。

「遥香?どうした?」

「え?」

「やっぱり、まだ辛かったか?」

「違うよ!」

「よかった。」

「それより、さっきはありがとう。」

「え?さっき?」

「うん。家に来ないかって言われた時、私の気持ちを汲み取ってくれたんだよね。」

「そんなことか。遥香は無理してでもいいよって言いそうだったからな。遥香に無理はさせたくない。だから、お礼はいいよ。」

「でも、私のためにありがとう。」

「いえいえ。」

頭を尊の肩に引き寄せられた。

「ちょっと。たくさん人いるじゃん!」

「いいだろ?遥香は美人すぎるほど美人なんだから、変な奴がくっついてこないようにしないと。」

たまにこういう子供みたいな一面を見せる尊。
私も、尊がイケメンすぎて誰か近寄ってこないか不安なんだから。

いつも看護師とか患者さんが尊の周りを取り囲んでいる。

「尊だって。」

「え?何か言ったか?」

「何でもない。」

店内のざわつきで私の言葉はかき消されていた。

「そういえば、遥香はハンバーグが好きだったんだね。」

「私、誰かが1から作ってくれたハンバーグ食べたことないから。」

「え?」

「だから、食べてみたくなったの。」

「…。」

私から顔をそらした尊。
何か変なこと言っちゃったかな…?

「尊?」

「さっきの顔は反則だよ。」

「え?」

「こんな所で俺の理性を飛ばさないで。」

「もう!本当、すぐそっちに持っていくんだから!」

「すぐそっちって。遥香が可愛すぎるのがいけないんだって何回言わせるんだ?」

「尊、野菜は買わないの?」

「話逸らしたな?」

「野菜、食べないと。」

「分かったよ。買っていこう。」

顔が真っ赤になってることが鏡を見なくても分かる。

それから、色々と買い物を済ませて家に帰った。
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