LOVE物語2
ーside遥香ー
私は、あれから決断が出せずに半日が経ってしまった。
気分転換にホールに行こうかな。
今日、尊に外には出てはいけないけどホールなら行ってもいいと言われた。
あの時みたいに、他の患者さんがいるところなら何か分かるかもしれない。
そう思い私は廊下へ出てホールへ向かった。
私は、椅子に座った。
すると、隣から60代くらいのあるおばあさんに話しかけられた。
白衣も来てるし医者なのかな?
「こんにちは。」
いきなり挨拶をされて驚いているとその人は私に、
「驚かせてごめんね。産婦人科で働いてる白石です。」
驚いた。
私と同じ苗字。
まぁ、白石なんてたくさんいるよね。
だから私も挨拶を返した。
「こんにちは。」
「白石遥香ちゃんだね?」
その人は私が腕にしているリストバンドを見て名前を確認した。
「はい。」
「体調の方はもうよくなった?」
「まだ少し怠いですけど大丈夫です。」
「呼吸器内科は遥香ちゃんくらいの歳の子は少ないから退屈してない?」
「んー、寝てることが多いのでそれはあまり感じた事はないです。」
「そうだよね。今は大丈夫?辛くない?」
「大丈夫です。」
尊以外の大人の人とこんなに穏やか時間を過ごしたのは初めてだった。
「遥香ちゃん、多分もうすぐ退院できるだろうけど、それまで退屈な時間があったらまたホールにおいで。ここは患者さんがたくさんいて心強いと思うわよ。私もね、診察の合間にここに来ることがあるの。だからまたお話出来るといいわね。」
「そうですね。また来ます。」
「遥香ちゃん?」
私は近藤さんに呼ばれた。
「白石先生…」
近藤さんはとても深刻そうな顔をしていた。
原因が分からない私は近藤さんの顔を見上げた。
「そんな怖い顔しないで。遥香ちゃんと世間話していただけだから。」
「本当ですか?」
「えぇ。それじゃあ、私は失礼します。」
近藤さんはお辞儀をして私の肩を支えながら病室へと帰った。
「遥香ちゃん、大丈夫?」
私は何のことだか分からなくて首を傾げていた。
「その様子だと大丈夫そうね。」
「はい。」
「どう?答えは出せた?」
「考えてはみました。でも…やっぱり私…」
「無理に会わなくてもいいと思う。遥香ちゃんに迷いがあるならまだ時期尚早なのよ。ちゃんと向き合ったことであの母親は変わった。でも遥香ちゃんにしてきたことは、なしになんかできないわよ?」
近藤さんがこんなに感情的になったのを見たのはこれで2回目。
いつも冷静で何でもてきぱきこなす近藤さん。
私のこと昔からよく知っているから信頼している。
ここまで近藤さんが私のために考えてくれてるなら会うのはやめよう。
「そうだよね…。今変わってても私にしたことは変わらない。だから、会わなくていいよね。」
「それは違うよ。」
突然ドアの方から声がした。
声のする方を見ると尊が立っていた。
ベットサイドの椅子に座り視線を外さず真剣な瞳で言った。
「遥香、少しでも母親と会うか迷ってたんだろ?それなら、1ミリでも会いたいって思ったんじゃないのか?遥香は、ちゃんとあの人と向き合った。だから、遥香もあの人も変わった。もう大丈夫だ。前にも言っただろ?例え、遥香に何かあったとしてもその時は俺が支えるって。だから、1ミリでも会いたいと思ったなら会うといいよ。」
そうだよ。
私はちゃんと向き合えた。
まだ、私から会おうとは思えないけど少しでも母親を母親と認めたのかもしれない。
「でも、今日はさすがに帰ったよね?」
「いや。まだいるよ?」
「え?」
あの人の子供だっているのに。
どうして?
私の決断を待っていたの?
「遥香、今は体を優先ずべきだと俺は思う。でも、ここには連れてこられることもできる。もし不安なら、俺もそばにいるから。」
優しく笑顔でいてくれる尊がそばにいる方が私は安心する。
だけど…
「尊、仕事は?」
「今日は…もう終わったよ。外来の診察が早く終わったんだ。」
「そっか。」
私は尊の嘘がすぐに分かった。
平日の診察がこんなに早く終わるはずがない。
私に気を遣わせないようにそう言ってくれたんだ。
私が余計なことを考えないように。
だから、私は会うと決めた。
「私…会う。」
「…分かった。近藤さん、ちょっと遥香のことを見ててくれるか?俺が連れてくるから。」
「分かりました。」
そう言うと尊は病室から出た。
私は、会うと決めたはいいものの、やっぱり緊張する。
震える手に近藤さんの手が重なってずっと握ってくれていた。
「大丈夫、何かあったら遥香ちゃんのことは私も守るから。」
「ありがとう、近藤さん。」
私がそう言うと近藤さんは笑ってくれた。
「遥香、いいか?」
しばらくするとドアの反対側から尊の声がした。
「はい。」
ドアが開くと、私でも驚く母親の変わりよう。
外見だけど。
まだ、中身が変わったのかは分からない。
マスクをして入ってくる2年ぶりに会う母親。
「遥香。」
久しぶりに、母親から呼ばれた名前。
「…はい。」
私は気づくと体が強ばっていた。
その様子を見た尊が私の両腕をさすってくれた。
「大丈夫だよ。」
そう何度も言いながら。
だから、私は少しでも心を落ち着かせることが出来た。
「遥香、体調の方は大丈夫?」
私は頷くことしかできなかった。
「起きてて辛くない?」
「はい…」
それから何も話すことなく沈黙の間が流れる。
「遥香、ごめんなさい。」
え?
何に対してのごめんなさい?
「謝って許してもらえることじゃないってことくらい分かってる。でも、どうしても遥香に謝りたくて。あれから私考えさせられたの。遥香の思っていたこと聞いて、感情ぶつけてくれたことが私、すごく嬉しかったの。だから、私も決めたの。2年もかかっちゃったけど、遥香が決めたように私も決めたの。私が犯した罪を償っていこうって。でも、どうしたらいいのか分からなくて。遥香は、どうしてほしい?」
どうしてほしい?って私に聞かれても…。
だけど、それなら私はもう私みたいな思いをする子供を見たくない。
それだけでいい。私に償わなくていい。
「それなら…2年前に産んだ子供を愛してあげてください。私の分も、愛情を注いであげてください。それと、何があったとしても子供を攻めたり、攻撃することはやめてください。」
母親はびっくりしていた。
「私のことを警察に突き出さないの?」
「突き出さないよ。その代わり、ちゃんと償ってほしい。でも、償うから愛するっていうことだけは辞めて。偽りの愛情なんか子供には通用しないし、償ってるから愛情を注いでいるって知ったら傷つくと思うから。」
「でも、私は…」
「てか、償うとかいいからさ?
ちゃんと愛してあげてください。」
母親はずっと俯いていた。
初めて見る母親の弱々しい姿。
私には尊がいる。
それで十分だから。
もう、今の自分の家族を大事にしてほしい。
「私は大丈夫だから、早く双子ちゃんのこと迎えに行ってください。あなたが迎えに来ること待ってるよ。」
「遥香…ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
「もういいですから。頭上げてください。」
何度も頭を下げる母親。
私は、頭を下げられることがあまり好きじゃない。
「遥香、あなたも幸せになるのよ。」
頭を上げた母親は私の視線を捉えてそう言った。
涙を流しながら、言葉にならない声で。
私は頷いた。
母親はそれを確認すると笑顔で言った。
「遥香のことよろしくお願いします。」
尊にも頭を下げていた。
「任せてください。」
母親はそれから部屋を出た。
全身に入っていた力が一気に抜けて尊に抱きしめられていた。
「遥香、よく頑張ったな。」
そう言いながら背中をさすってくれる。
この温もりがすごく温かい。
安心できる私の居場所。
愛されているってことが分かる場所。
それよりも私が1番大好きな場所。
私を支え愛してくれている人がそばにいる。
だから、私は十分幸せだよ。
私は、あれから決断が出せずに半日が経ってしまった。
気分転換にホールに行こうかな。
今日、尊に外には出てはいけないけどホールなら行ってもいいと言われた。
あの時みたいに、他の患者さんがいるところなら何か分かるかもしれない。
そう思い私は廊下へ出てホールへ向かった。
私は、椅子に座った。
すると、隣から60代くらいのあるおばあさんに話しかけられた。
白衣も来てるし医者なのかな?
「こんにちは。」
いきなり挨拶をされて驚いているとその人は私に、
「驚かせてごめんね。産婦人科で働いてる白石です。」
驚いた。
私と同じ苗字。
まぁ、白石なんてたくさんいるよね。
だから私も挨拶を返した。
「こんにちは。」
「白石遥香ちゃんだね?」
その人は私が腕にしているリストバンドを見て名前を確認した。
「はい。」
「体調の方はもうよくなった?」
「まだ少し怠いですけど大丈夫です。」
「呼吸器内科は遥香ちゃんくらいの歳の子は少ないから退屈してない?」
「んー、寝てることが多いのでそれはあまり感じた事はないです。」
「そうだよね。今は大丈夫?辛くない?」
「大丈夫です。」
尊以外の大人の人とこんなに穏やか時間を過ごしたのは初めてだった。
「遥香ちゃん、多分もうすぐ退院できるだろうけど、それまで退屈な時間があったらまたホールにおいで。ここは患者さんがたくさんいて心強いと思うわよ。私もね、診察の合間にここに来ることがあるの。だからまたお話出来るといいわね。」
「そうですね。また来ます。」
「遥香ちゃん?」
私は近藤さんに呼ばれた。
「白石先生…」
近藤さんはとても深刻そうな顔をしていた。
原因が分からない私は近藤さんの顔を見上げた。
「そんな怖い顔しないで。遥香ちゃんと世間話していただけだから。」
「本当ですか?」
「えぇ。それじゃあ、私は失礼します。」
近藤さんはお辞儀をして私の肩を支えながら病室へと帰った。
「遥香ちゃん、大丈夫?」
私は何のことだか分からなくて首を傾げていた。
「その様子だと大丈夫そうね。」
「はい。」
「どう?答えは出せた?」
「考えてはみました。でも…やっぱり私…」
「無理に会わなくてもいいと思う。遥香ちゃんに迷いがあるならまだ時期尚早なのよ。ちゃんと向き合ったことであの母親は変わった。でも遥香ちゃんにしてきたことは、なしになんかできないわよ?」
近藤さんがこんなに感情的になったのを見たのはこれで2回目。
いつも冷静で何でもてきぱきこなす近藤さん。
私のこと昔からよく知っているから信頼している。
ここまで近藤さんが私のために考えてくれてるなら会うのはやめよう。
「そうだよね…。今変わってても私にしたことは変わらない。だから、会わなくていいよね。」
「それは違うよ。」
突然ドアの方から声がした。
声のする方を見ると尊が立っていた。
ベットサイドの椅子に座り視線を外さず真剣な瞳で言った。
「遥香、少しでも母親と会うか迷ってたんだろ?それなら、1ミリでも会いたいって思ったんじゃないのか?遥香は、ちゃんとあの人と向き合った。だから、遥香もあの人も変わった。もう大丈夫だ。前にも言っただろ?例え、遥香に何かあったとしてもその時は俺が支えるって。だから、1ミリでも会いたいと思ったなら会うといいよ。」
そうだよ。
私はちゃんと向き合えた。
まだ、私から会おうとは思えないけど少しでも母親を母親と認めたのかもしれない。
「でも、今日はさすがに帰ったよね?」
「いや。まだいるよ?」
「え?」
あの人の子供だっているのに。
どうして?
私の決断を待っていたの?
「遥香、今は体を優先ずべきだと俺は思う。でも、ここには連れてこられることもできる。もし不安なら、俺もそばにいるから。」
優しく笑顔でいてくれる尊がそばにいる方が私は安心する。
だけど…
「尊、仕事は?」
「今日は…もう終わったよ。外来の診察が早く終わったんだ。」
「そっか。」
私は尊の嘘がすぐに分かった。
平日の診察がこんなに早く終わるはずがない。
私に気を遣わせないようにそう言ってくれたんだ。
私が余計なことを考えないように。
だから、私は会うと決めた。
「私…会う。」
「…分かった。近藤さん、ちょっと遥香のことを見ててくれるか?俺が連れてくるから。」
「分かりました。」
そう言うと尊は病室から出た。
私は、会うと決めたはいいものの、やっぱり緊張する。
震える手に近藤さんの手が重なってずっと握ってくれていた。
「大丈夫、何かあったら遥香ちゃんのことは私も守るから。」
「ありがとう、近藤さん。」
私がそう言うと近藤さんは笑ってくれた。
「遥香、いいか?」
しばらくするとドアの反対側から尊の声がした。
「はい。」
ドアが開くと、私でも驚く母親の変わりよう。
外見だけど。
まだ、中身が変わったのかは分からない。
マスクをして入ってくる2年ぶりに会う母親。
「遥香。」
久しぶりに、母親から呼ばれた名前。
「…はい。」
私は気づくと体が強ばっていた。
その様子を見た尊が私の両腕をさすってくれた。
「大丈夫だよ。」
そう何度も言いながら。
だから、私は少しでも心を落ち着かせることが出来た。
「遥香、体調の方は大丈夫?」
私は頷くことしかできなかった。
「起きてて辛くない?」
「はい…」
それから何も話すことなく沈黙の間が流れる。
「遥香、ごめんなさい。」
え?
何に対してのごめんなさい?
「謝って許してもらえることじゃないってことくらい分かってる。でも、どうしても遥香に謝りたくて。あれから私考えさせられたの。遥香の思っていたこと聞いて、感情ぶつけてくれたことが私、すごく嬉しかったの。だから、私も決めたの。2年もかかっちゃったけど、遥香が決めたように私も決めたの。私が犯した罪を償っていこうって。でも、どうしたらいいのか分からなくて。遥香は、どうしてほしい?」
どうしてほしい?って私に聞かれても…。
だけど、それなら私はもう私みたいな思いをする子供を見たくない。
それだけでいい。私に償わなくていい。
「それなら…2年前に産んだ子供を愛してあげてください。私の分も、愛情を注いであげてください。それと、何があったとしても子供を攻めたり、攻撃することはやめてください。」
母親はびっくりしていた。
「私のことを警察に突き出さないの?」
「突き出さないよ。その代わり、ちゃんと償ってほしい。でも、償うから愛するっていうことだけは辞めて。偽りの愛情なんか子供には通用しないし、償ってるから愛情を注いでいるって知ったら傷つくと思うから。」
「でも、私は…」
「てか、償うとかいいからさ?
ちゃんと愛してあげてください。」
母親はずっと俯いていた。
初めて見る母親の弱々しい姿。
私には尊がいる。
それで十分だから。
もう、今の自分の家族を大事にしてほしい。
「私は大丈夫だから、早く双子ちゃんのこと迎えに行ってください。あなたが迎えに来ること待ってるよ。」
「遥香…ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
「もういいですから。頭上げてください。」
何度も頭を下げる母親。
私は、頭を下げられることがあまり好きじゃない。
「遥香、あなたも幸せになるのよ。」
頭を上げた母親は私の視線を捉えてそう言った。
涙を流しながら、言葉にならない声で。
私は頷いた。
母親はそれを確認すると笑顔で言った。
「遥香のことよろしくお願いします。」
尊にも頭を下げていた。
「任せてください。」
母親はそれから部屋を出た。
全身に入っていた力が一気に抜けて尊に抱きしめられていた。
「遥香、よく頑張ったな。」
そう言いながら背中をさすってくれる。
この温もりがすごく温かい。
安心できる私の居場所。
愛されているってことが分かる場所。
それよりも私が1番大好きな場所。
私を支え愛してくれている人がそばにいる。
だから、私は十分幸せだよ。