白球に届け
高校に入った年、桜の咲いている日に私は1人の男の子を見た。

身長は180センチくらいかな?
髪型はスポーツ刈り調で肌は日に焼けている男の子。
彼は野球部の練習着を着て私の教室にいた。

「今年こそ甲子園行こうぜ」
男の声だけどそこまで汗臭さを感じない声。

野球部員は何人かいるけど、彼だけは異彩を放っていた。

「北島君、どこ守ってるの?」

クラスの女子が言う。

「センターだけど?」

彼は何気なく応えた。

「何でピッチャーにしないの?」

「俺なんかよりピッチャー向きの奴がいるし、1年のセンターは俺しかなり手がいないかったんだよ」

「え~私なら監督に言ってピッチャーにしてもらう~」

「その監督が俺をセンターに指名したんだよ」

「え~センターって地味じゃん」

「センターは外野の要なんだよ」

「外野の要って?」

「真っ正面に打球を返されたらすぐに捕らなければならないし、フライだって捕らなきゃなんない。じゃあ、これから部活なんで」

「頑張ってね~」

そう言って彼は教室を出ていった。

教室の外を見てみればグラウンドがあって、野球部とサッカー部が整列している。

急ぎ、その中に入る部員が1人。
さっきの男の子だ。

ウォームアップということで、体操に入っている。

『1、2、3、4、5、6、7、8、9、10!!』

野球部が揃いに揃って奇声を出している。

私はその声が嫌いだった。
だって、人の声に聞こえないんだから。
でも、中学では運動部だったから、掛け声をかけていることだけは何となく解った。

「愛ちゃ~ん、何見てるの~」

ポニーテールの女の子が窓辺の野球部を見ている私に声をかけた。

「野球部をなんとなくね。佳奈」

「野球好きなの?」

「ううん、好きというほどじゃない」

彼女は若松佳奈。
私の同級生。

先程まで教室にいた彼とは同じ中学だった。

しかも推薦で入ってきた才女。

「私は割と好きだけどな~」

「プロ野球見てるの?」

「ううん、高校野球が好きなの」

「じゃあ何で私立にしなかったの?」

「私立の強いとこってスポ薦取るじゃん。いわばプロ入りを約束されたエリートばかりなわけ」

「それならなおさら甲子園の常連校に行った方がいいよ。県大会を勝ち抜けば甲子園なんだし」

「……そうじゃないの。私は選ばれたメンバーでする野球じゃなくて、楽しんでプレイしている野球が見たいの」

「だから公立を受けたの?」

「うん。武司も受けたから」

「武司って?」

「2組の北島武司、野球部で同中で、スポーツ刈りの」

「じゃあさっきの男子が北島君?」

「うん」
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