偽りのヒーロー

action.1

 高校生になると、グッと大人に近づいた気分になる。

中学生のときより、ちょっと短く折ったスカート、新しく買ってもらったスクールバッグにピカピカのローファー。

入念にヘアアイロンで伸ばしてまっすぐにした髪の毛は、準備万端のはずなのに。



「やばい、遅刻だ……! どうしよう、早く止まって!」



 入学式当日。
余裕を見て家を出たはずなのに、この失態。

慣れない電車通学が、一日目にして頓挫した。間違って、学校へ向かう方向とは逆の電車に乗ってしまったのだ。
一駅過ぎたところで、すぐに気づけば間にあったかもしれないのに。数駅進んで、やっと気づいた頃にはもう遅い。

焦ったところでどうにもならないのはわかるけれど、どうにもじっとはしてられない。

しきりに携帯を見て、ぺこぺこ画面をタップしても、少しも気は休まらなかったけれど。



「あっ、先生! 最後の子、来ましたよ!」



 上級生らしき生徒が、こっちこっちと手招きする。

どうにかして学校に辿りついたのはいいけれど、どうやら遅刻すれすれといったところになってしまったようだ。


 上級生がこなれた手つきで「祝・入学」と書かれた紙をぶら下げた花を胸元につけてくれる。

「間にあって良かったね」と弧を描く唇がほのかにピンク色に光っていて、ほんの1、2歳しか違わないはずなのに、ずいぶん大人びて見えていた。



「急ぎなさい。自分のクラスは確認したか?」



 はあはあと息をするその肩で、ふるふると左右に顔を振ると、苦笑して名簿を指でなぞる。



「名前は?」

「葉山菜子です」



 葉山、葉山……と呟きながら、先生らしきその人が、手に持った名簿のページを捲る。



 そういえば、玄関のガラスの扉に、大きな紙が掲示されていたかもしれない。あまりに焦っていたものだから、よく見もせずに勢いのまま入って来てしまったけれど。


「あ、1組だな。教室の場所わかるか? 結城、連れて行ってやれ」



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