偽りのヒーロー



 深刻な話ではなさそうだ、と胸を撫で下ろすと、遠く見つめる紫璃の視線が、ぐらりと何かを捉えた。




立ち止まった紫璃の視線のその先を辿ると、買い食いをする未蔓の姿。こちらに気づいた様子で、菜子にひらひらと手を振っている。

同じように手を振り返すと、未蔓に駆け寄ろうとした菜子の腕をぐん、と引っ張りそれを制した。



「……やっぱ言うわ」



 先ほどの砕けた空気は一変し、どこか重苦しい息のし辛い空気感。


すぐに放された腕は、ぶらぶらと後を引いて、止まる頃には紫璃が口を開く。



「お前ちょっと一之瀬とベタベタしすぎじゃねえ? 幼馴染っつっても限度があるだろ。体育祭のときもだったけど……」



 つらつらと並ぶ紫璃の言葉を、菜子は最後まで聞けていなかった。



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