偽りのヒーロー
「放課後ひまな人いなーい?」
そんなクラスメイトの声が聞こえて、菜子は耳を傾けた。
「合コン」「人数」言葉の端々が聞こえており、菜子は勢い良く手をあげた。
「私行くっ!」
「まじ? 助かるー。人足りなくて」
紫璃に向けていた身体を起こし、席から立つ。
友人のもとへ駆けよると、予想通り合コンという名目で、大勢で遊ぶのだという。
思わぬ菜子の参加に友人は目を丸くしていたが、すぐに笑みを浮かべていて話だした。
怪訝な紫璃の菜子を見る目が、またもやおざなりにされたことを責め立てている。「ごめんごめん」と軽口を叩くも、全くもって聞く耳なし。
それどころか、紫璃の耳にも聞こえていたのであろう、放課後の予定を問われて、けろりとした菜子の顔が、伏し目がちになっていた。
——依存。
この言葉が菜子の頭を過ぎる。確かに未蔓とは、一緒にいる時間が長くなりすぎた気がしている。家族に言えない我慢と弱音。隣にいてくれる心強さ。
あまりに未蔓に縋りすぎていたのだろうか、と。
「紫璃さあ、未蔓とベタベタしすぎって言ってたでしょ。そうだなって思った。実際、菖蒲にもそう思われてたわけだし。だから、ちょっと彼氏をつくりたいなと思いまして」
へへへ、と照れくさそうに菜子は笑った。
歪む視線、苛々して脈打つ鼓動。ガタッと音を立てた紫璃の椅子は、主をなくして寂し気に温もりだけを残していた。
午前中だというのに、4時間目も、お昼になっても紫璃の席は空いたままだった。
あろうことか放課後になっても紫璃は姿を見せず、菜子は友人と共に学校を後にした。