偽りのヒーロー
「菜子が自分から何か欲しいって言うことないんだ。求めることに苦手意識があるっていうか。だからいい傾向だよ。彼氏つくりに行ったんでしょ」
「苦手って……なんで」
「知りたいの?」
慌てて「いや」と紫璃は否定した。
レオはニタニタと笑みを隠せていなくて、きっと紫璃が菜子を気にしているであろうことは、未蔓にもすぐに合点がいった。
嫉妬と、後悔と、不安。
ずいぶんと印象と違う紫璃に、未蔓は興味深そうに視線を向けていた。
「俺は家族みたいで家族じゃないから。都合がいいんだ。その距離が」
腑に落ちない、といった紫璃の顔に頬が緩んだ。
聞きたいのに本人を傷つけそうで聞けないという紫璃の態度がこんなにもわかりやすい。菜子はバカだ、と笑みが漏れる。
「菜子のお母さん、いないでしょ」
そういう未蔓に、紫璃とレオは、こくりと頷いていた。