偽りのヒーロー



「菜子、ケーキ食えないの?」



 スイーツは別腹、なんて女子が当たり前のこの世の中。
私もそう違いはないけれど、生クリームだけは胸やけがしてしまう。

とは言っても、ショートケーキやロールケーキ一つなら食べられるし、ケーキや他のスイーツだって大好きだ。

ふーんと興味なさそうに厨房に目を向けるこの男に、「あんたが聞いてきたんだろ」となじってやった。



 レオは菖蒲のバイト姿に釘付けのようだ。

いつもと違う学生服以外の菖蒲に夢中で、ここの喫茶店のカフェエプロンの制服が似合っていて、レオの目がハートになっているのも頷けた。



「花屋でバイトしてんの?」



 突拍子もなく飛んできた質問に、思わずきょとんとした。

まだバイトを始めて数か月と間もないこの時期、仕事を覚えることで精一杯で、回りを見渡す余裕は感じられなかった。



「なんか菜子のこと見たって言ってたから」

「誰が?」

「やべやべ。えーっと、友達?」



 隠すのが下手なのも程がある。
焦ったように取り繕った答えが、事前に用意されていたものではないのはすぐにわかった。

当然、その下手くそな嘘を追及したけれど、はぐらかす蕪村な態度は、菜子には些か不服であった。

それどころか、話の種は他のところに飛び火してしまい、なぜだか小競り合いになってしまっていた。



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