偽りのヒーロー
激しい運動は敬遠された。それは当然子どもを授かることを含めて。
しかしながら30を迎える頃よりも、体力のある今のほうがリスクは低いと医者は言った。当然つきまとうリスクはなくなることはないと、医者は告げた。
授かるということはいかに尊いものかと思った。市販の検査薬のピンク色の直線に、こんなにも釘付けになる日がくるとは思わなかった。
女性というのは、なんて強い生き物なのかと思った。小さな体のお腹が膨らむ程に、強く優しくなっていく。
それは、依然と比べ物にならないくらいに、元気な姿。両親が見違えてしまうほどの、娘の笑った姿。
生まれた子供は、女性によく似た女の子。
のちに、菜子と名付けられた。顔だけでなく、まっしろな肌さえも似ていて、何度も健康祈願をしていたのを、菜子の父は知っている。
新しくできた家族の誕生に一喜一憂した。
子供が生まれたことだけではない、通院やわずかな入院を経て、高校卒業を捨てた女性が、短時間ながらもスーパーのレジを打っていた。
手を取り合って喜んだ。一世一代の決心をしただけのことはあると微笑みながら。
菜子が保育園に通うようになると、驚くほど言葉を覚えるようになった。
偶然にも、菜子の父の同級生と同じ年の子供もいた。それが、菜子の幼馴染でもある未蔓。未蔓には弟がいた。2歳下の弟。
幼馴染に新たな家族ができると、菜子はふと疑問に思った。なぜ自分には兄弟がいないのだろうと。
「クリスマスは何か欲しいものある? ママたちから、サンタさんに言わないといけないの」
小さな頃の、よくある会話。菜子は、満面の笑みを浮かべて、「弟か妹が欲しい」と言った。