偽りのヒーロー
action.10
「昨日、菖蒲も来ればよかったのに〜!」
女子が集まる教室の隅で、そんな声が聞こえていた。
昨日の合コン、という名の集まりは、菜子にとっては散々たるものだった。
カラオケに行った男女の数人。違う学校の男の子の制服姿は新鮮で、そわそわと落ち着かないでいた。
カラオケなんて、仲のいい人と行くものとばかり思っていた菜子は二の足を踏んだものの、自推で合コンへ行ったのだから、腹を括るしかなかった。
大音量で鳴り響くメロディに耳障りな歌声。
菜子は、音痴だったのだ。
第一印象は、そうも音痴と思われなかったらしい菜子の歌声に、笑い声が響いていた。それまでは皆ぎくしゃくと一定の距離を保っていた男女の中が、一瞬にして縮まったことは、音痴もたまには役に立つ、と無理やり納得させたものだ。
「でもすごかったよね! 最後、小学校のときのアニソンで大合唱!」
「あれ超盛り上がったよね! いやーしかし菜子があんなに音痴って破壊力ありすぎなんだけど」
げらげら笑う友人たちの中で、「そうなの?」と冷静な菖蒲の一言に、菜子は頬を赤らめて頷いた。