偽りのヒーロー




 困惑したように目を見開いた皆の顔が忘れられない。ぎょっとする、まさにそんな言葉がぴったりだった。


 認知度の高いラブソング。バラードを気持ちよく歌い上げるクラスメイトに、目を輝かせて拍手を送った。

あまりに恋愛に偏った選曲に、一度は狼狽えたものの、歌ってしまえば一瞬の恥。

一体になったライブ会場みたいに思えて、肩を組んでの大合唱には笑みが漏れる。



「で? 彼氏はできたの?」



 呆れたように笑う菖蒲の言葉にふるふると顔を振った。

しかしながら、一人ピースサインをしている友人。「あたしはできたけどね」と菜子に意地悪な笑みを返す友人に、周囲は声高らかに笑っていた。



「でもまた遊ぼうってことになったんだよね。菖蒲も今度行こうよ〜。みんなで連絡先交換して、グループ組んだし! あれ、てか菜子昨日あれからどうなった?」

「どうもこうもないよ。送ってもらったのは有り難いけど、電話来てさ。それはいいんだけど、なんか切りにくくて、私はいつの間にか寝てましたよ……」



 げらげらと笑う友人達に菜子はげっそりとした顔を見せた。
「寝るまで一緒とか、えろいわー」と菜子をからかう声が響いていた。



「ごめん、菜子。私のせいよね、その、一之瀬くんのこと……」



 一段落した会話の中で、菖蒲が耳打ちをする。目尻を下げて、申し訳なさそうに。



「違うよ。ただちょっと彼氏いたら、どんなんかなって思っただけだから」



 にっと笑う菜子に、菖蒲はほっとしたように胸を撫で下ろしていた。



茶化すように、菖蒲の腕をつんつんとつついてみると、いつものように可愛い笑顔が返ってきた。




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