偽りのヒーロー
放課後になると、原田に貸そうと思っていた漫画を届けに、7組まで足を運んだ。
菜子を見つけて未蔓が席を立つと、ざわざわと女子がこちらを窺い知るような視線を向けている。
他人から見れば、本当に誤解しうる仲に見えるのだということを痛感し、ちょっぴり胸が重くなる。
別に、始終未蔓と一緒にいるわけではないのに。
長い道のりを歩いていると、放課後人気の少なくなった廊下を、先生が待ってましたとばかりに駆けつけ、菜子は体よく手伝わされてしまっていた。
ノートを運び、プリントの枚数を確認し、それをホチキスで留めていく。パチパチと無心で手伝いに勤しんでいると、いつのまにか下校の生徒すらチラホラとまばらになっており、部活に励む生徒の掛け声だけが響いていた。
教室へ戻ると、部活をしているわけでもないのに、紫璃が未だ帰宅していないようだった。
机に伏せて、すーすーと寝息をたてているのが聞こえてくる。
机の中からいくつかの勉強道具を取り出すと、とんとんと教科書の端を整える音で、紫璃がびくっと体をはね起こす。
「何してたんだよ」
眉間に皺を寄せる紫璃の頬に、カーディガンの跡がくっきりとついていた。
ふふ、と笑いながら、菜子が頬を指さし「ついてるよ」と口を開くと、恥ずかしそうに手のひらで擦りあげていた。
「先生に捉まっちゃってね。紫璃こそ何してんの? もうみんな帰ったよ」
カバンを手に持ち席を立つと、菜子を追いかけるように紫璃もその後を追う。
首を傾げる菜子に、「さっき女子が騒いでた」と紫璃がぽつりと呟いた。
「なんか校門のとこ、男いるって。菜子に連絡しても既読つかないから待ってるっつってた」
「え!? それもっと早く言ってよ!」
慌てふためき、菜子はカバンの中を漁った。整えられたカバンの中身は一目瞭然で、そこにない携帯を何度も何度も探していた。
「携帯忘れてきちゃった……! 紫璃、まだいるって言ってた?」
焦りを隠せず、まくしたてるように口を開く菜子に「さあ」と、紫璃は突っぱねた。
ゆるりと降りていた階段を、急ぎ駆け足で下ろうとする菜子のカバンの持ち手を、ぐんと引っ張り行きを止める。
「そいつとつき合うわけ」