偽りのヒーロー
「レオはさあ、ちょっとは気ぃ遣ってよ! この前、貸したノートにポテチこぼしたでしょ!」
「違いますぅ〜。ポテチじゃないです、がじゃりこです〜」
「……貸した消しゴムも割れて返ってきた!」
「や、ほら消しゴムっていつか割れるものじゃん? それが俺んとこきたときに割れただけじゃん?」
「……くそが」
「うわ! そんな言葉使いする女の子は幻滅だわ〜。ひくわ〜」
ああだこうだと言い合っては、お互いに折れることもなく、気づけば菖蒲が注文した品を持って、テーブルの前で唇をひくつかせている。
「……うるさくするなら帰ってよね」
静かに怒りの雷を落とす菖蒲を見て、「お前のせいで怒られただろ」と頬をふくらませていた。
小さな口喧嘩のおかげというべきか、ちょうどよく小腹が減っていた。
菜子の注文したベジタブルケーキの綺麗な切り口と、レオの注文した真っ白な生クリームと艶やかなカスタードクリームのケーキがテーブルの上を彩る。
「すごい綺麗じゃない? これ!」
ケーキの精巧さを見て、感動のあまり喧嘩をしたことなど微塵も感じさせず、向かい合って座る二人は目を輝かせて視線を交わす。気まずさの欠片もなく、ぺろりとケーキを食べ尽くした。
会計時の呆れた菖蒲の顔はそれでも綺麗な顔をしていて、最後までレオは上機嫌だった。