偽りのヒーロー




 冬を迎えると、一気にタイツを履いてくる女生徒が多くなる。



カーディガンを着て、コートに身を包んでも身体が凍えて縮こまる。「生足が拝めなくて残念だ」とか「タイツのほうが逆にエロい」とか、バカな話を蔑んだ目でじろりと見ていた。

その話の中心にいるのは、大概がレオで、近くの席にいる菖蒲が座ると、途端に口をつぐんでいた。





 レオと喧嘩をしていたことなど、菜子はすっかりと頭から抜け落ちてしまっていた。



 ある朝、文字のない怒った顔と怒りマークだけが描かれた付箋が、菜子の机の上にペタリと貼られていた。
新手のいじめかと怪訝な顔をすれば、紫璃があれ、とレオの顔を笑って見ていた。



 とうに忘れ去った出来事を、ふと思い出すと、頬を膨らませたレオ。


慌ててごめんと謝ると「知らねっ」と拗ねたようにそっぽを向かれた翌日、ちゃっかりと「ノート貸して」と手を合わせていた。


もちろん貸したノートには、チョコレートの甘い匂いとふき取った跡がついて返却された。
またか、と呆れ顔を作って捲ったノートには、「ごめん」と綺麗ともいえない文字が記されていた。





けらけら笑い合う菜子とレオの間に、無理やり割って入ろうとする紫璃を見て、本当に告白されたのか、とどこか夢心地の空気がわずかに現実に手繰り寄せられた。








「菜子、なんか私に言うことない?」



 おもむろに口を開いた菖蒲が、怖い顔をして菜子をじっと見つめている。「何が?」と言わんばかりの首を傾げた菜子に、菖蒲はここぞとばかりに詰め寄った。



「いつから結城とつき合ってるのよ」



 オブラートに包み隠そうとすらしない直球を投げてきた。ゴホゴホとせき込んだ後、菜子は顔を赤くして俯いた。



「わかりません……」




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