偽りのヒーロー
action.11
クリスマスが近づくと、学校中が色めきだっていた。冬休みが近いこともあり、ざわざわと予定を埋める声が聞こえていた。
菜子はと言えば、いつも通りに家族で過ごして、ケーキとチキンで豪華な食卓を彩って、父という名のサンタがプレゼントをくれる。
弟が指摘するまで続くであろう父の大役は、必死で子供が寝静まるまで待っているのかと思うと、お疲れさま、なんて声をかけてあげたくなる。
高校生になってからは菜子もバイトを始めた。少ないけれど、使えるお金も持っている。
今年からは、父にもサンタが訪れる、なんて慣れないサプライズを決行しようと計画していて、自然と笑みが漏れていた、そんな中。
「菜子」、既に聞き慣れた声に振り向いた。
「24か25って、時間ある?」
「ごめん! 24、5はバイトなの。その日はどうしても忙しくて、休めなくて」
「……そのあとは?」
「? 普通に家帰ろうと思ってるけど。たぶんご飯作るのに、結構時間かかると思うから」
「……だよな」と紫璃は小さく呟いた。椅子にもたれかかると、ギコギコと体重のかかったパイプと木材の簡素な素材の椅子が、今にも後ろに倒れそうだ。
24日、クリスマスイブ。25日、クリスマス。
黙りこくった紫璃を見て、普通は彼氏と過ごすべき日であることにようやく気づいた。恋人同士の一大イベントをすっかりと見落としていた。
頭の中には、どうやって父を驚かそうとか、夕食は何を作ろうかなんてことでいっぱいで、忘れていたなんてことは言えそうにない。
「27日! 27日は? 何か予定ある?」
冬休みの最初の日。その日だったらどうだろう。
クリスマスもすっかり終わって、もはや新年に向かってのカウントダウンが始まる頃かもしれないが。
それでも時間は作るべきなのではないだろうか。慌てふためき、菜子は口を開いていた。
「なんもないけど」
「よかった! じゃあ27、どっか行こ? その日、バイトもないから!」
「……なんだよ、デートにでも誘ってくれてるわけですか」
「え、うん。そういうことなんだけど……。だめ?」
「……だめじゃねえよ」、その言葉が尻すぼみになっていた。
あまりに掠れた声が聞き取りづらくて、え? と耳に手をあて顔を近づけると、頬を手で押しのけられてしまった。