偽りのヒーロー
27日。どこに行くかも決めずに、紫璃に二人で出かけていた。
既にクリスマスのイルミネーションは終わっていて、お正月の香り漂う一足早い門松が街並を彩っている。
行く先々でそれを見るたび、「ごめん」と菜子は何度も謝っていた。そのたび紫璃は菜子の頬をむぎゅ、と大きな手のひらで覆って不細工になった顔を見て笑い合っていた。
一応デートということもあって、身なりには気遣ってきたつもりだ。紫璃と出かける予定が決まった日。
早々にクローゼットを開けての一人ファッションショーをするつもりだったのだが、しかし。
「着ていく服が全然ないな……」
菜子は自身のセンスのなさに引いていた。
考えてもみれば、今まで私服に気を遣ったことなどないかもしれない。
中学までは土日もずっと部活をしており、制服とジャージがあれば事足りた。高校に入った今ですら、ほぼ制服に頼っていた自分を呪いたい。
花屋のバイトの制服は、エプロン着用義務があるけれど、その他は動きやすくて華美でないもの。
もっぱらボトムはデニムだったし、トップスに関しては、夏はTシャツ、寒くなったらトレーナーやパーカーなどのスウェットの服。スポーティーな服だと定評があったはずなのに、そんなお洒落なものではなくて、ただの運動部の服を気にしていない女子のクローゼット。
慌てて菖蒲に「服を買いに行くからついてきて!」と泣きついた。
ただし、菖蒲と行った買い物には一つだけ、難点があった。
菖蒲は可愛いものが好きなのだ。色もピンクの女の子らしい色が好みで、「これいいんじゃない?」と勧めてくる服のピンク率が、やたらに高かった。ピンクの服など一着も持っておらず、菜子には少しばかりハードルが高い。
着せ替え人形のようにたくさんの服を着せられて、選んだのはくすんだアイボリーのニットのワンピース。あまりにもベタだろうかと、尻込みしていた。
服屋のお姉さんが勧めてくる、身体のラインにぴったり沿う白いニットワンピではなく、ふわりとしたシルエットのくすんだアイボリーのニットワンピを選んだのが、菜子のせめてもの抵抗だった。