偽りのヒーロー
冬は決まってほぼダッフルコートを着ている。
学校に着ていく紺のショート丈のダッフルコートは、休日に着るカーキのモッズコートより着ていく頻度が高くて、既に袖が毛羽立っている。
そんなのは、当然理想のデート服なんかではなくて、紫璃のような容姿端麗な人と並ぶには、尚のこと気合いを入れなければ、と思わされた。
着ていくコートは決まっている。母が似あうと言って買ってくれた、淡いブルーのコート。
綺麗な色が気に入っていて、お気に入りの服の一つだったけれど、汚すのが怖くてあまり外に着ていく機会がなかった。
母は「クリーニングに出せばいいじゃない」と笑っていたこのコートが今、日の目を見ようとしている。
待ち合わせをした駅で、菜子はきょろきょろと辺りを見回しながら、紫璃を探していた。
冬休みに入ったのは、菜子の通う高校だけではなく、当然他の学校の生徒らも冬期休暇に入っている。
人混みに流され、あれよあれよという間に意思とは反した方向に流されかけたりもした。慌てて人混みの中を舞い戻ろうとすると、腕を掴まれ気づけば紫璃のもとへと到着した。
「ぼけっとしてんなよ」
「ごめんごめん」と頭の後ろに手を当て、菜子がへらへら笑うと怒られてしまっていた。
雑踏の中、紫璃の前では初めて身に纏う、まともな私服。
それにも関わらず、さも当然のように見つけてもらえたのが菜にはくすぐったく感じていた。初っ端から味わった恋人気分が照れくさくて、ついつい軽口を叩いてしまう。
「うるせえよ」と頭を小突かれるまで、ずっとくだらない話をした。
無計画なデートは、ぶらぶらと街中をうろつかせ、気づけばいい感じで小腹の空くほどの、散歩をしてしまっていた。
学校帰りに立ち寄るのはファーストフードやファミレスのお店。今日入ったのは、いつもと違う、ちょっと落ち着いた雰囲気の喫茶店。
軽い気持ちで注文したカルボナーラが1500円もして、目玉が飛び出そうになった。
デートの定番と言えば映画館。それに倣って菜子と紫璃も映画館へ足を運んだ。公開中のカップルが見るであろう恋愛映画は、次の上映時間まで満席であった。
席に余裕のある上映中の映画のラインナップは劇場版のアニメ映画。尻込みする紫璃を無理やり引っ張り連れていった。