偽りのヒーロー
薄暗い波打ち際は、静かに波打つ音が広がっていた。
冷たい空気が髪を梳くって、鼻と頬が真っ赤になる。おまけに潮風にさらされた耳も冷たい。「寒いね」と、当然のことを笑って話していた。
「これ、やる」
紫璃から手渡されたのは、小さな四角い箱だった。綺麗な包装紙で包まれており、赤いリボンが鮮やかに施されていた。
それがクリスマスプレゼントだと気づくには、時間はかからなかった。
「開けていい?」
ん、と小さく呟く結城くんの返事を聞くと、まじまじとその箱を見つめた。綺麗な包装紙が切れないように、ゆっくり包みを開けていく。
「わ! 可愛い……!」
ころん、と手に転がったのは、小さなピアスだった。
四葉のクローバーが本物のようで、薄暗い景色の中では、細かな装飾を確認することはできないけれど、どうやら樹脂で固められたもののようだ。
小さなコットンパールが優しい色合いで、思わず笑顔になってしまう。
「よく開いてるって知ってたね」
菜子は自身の耳たぶを摘まんで見せる。驚くのは当然のことだった。
普段は目立たないようしている、透明のピアス。穴が塞がらないようにつけた、おしゃれの欠片もないピアス。
ピアスの穴をあけたのは、中学式の卒業式の夜のことだっただろうか。短絡的な考えかもしれないけれど、もうぐずぐずするのは止めようと決めた、決意の証拠。
ただし高校の規則では、ピアスは校則違反になる。自分でやっておきながら、校則を破るのが怖くて、怯えて透明なピアスに変えたのだ。
堂々とピアスをしている子も結構いるのだけれど、どうにも菜子にはできそうにない。
半端な決意だと笑われそうで、なんとも居心地が悪い気がしていたのは、菜子の胸中の中に秘められていたことだ。
「ありがとう」
冷たくなった耳たぶに、もらったばかりのピアスをつけた。ひんやりとする感覚に心が躍る。
「ん。似合ってるじゃん」
その言葉と同時に、紫璃の冷たい手が菜子の耳に触れ、身体が強張った。次第に顔が近づいてきて、それをそらすように、包みを顔に押しつけた。
「……なんだよ」
「一応……プレゼント、です」
予想だにしていなかったのか、目を見開いた紫璃が小さな声で「さんきゅ」と呟いた。