偽りのヒーロー
菜子の隣でがさごそと紫璃が包みを開けている間、なんだか気恥ずかしくて、つい饒舌になってしまった。
「迷惑かけてごめんね」とか「いろいろしてくれてありがとう」とか。その全ての言葉に、紫璃の返事はなく、傍から見たらひとりごとみたいになってしまっていた。
クリスマスの当日は一緒に過ごせなかったけれど、せめてプレゼントだけは贈りたいと思って、一日中悩んで買った贈り物。
ベタかもしれないが、朝、学校へ登校した紫璃の椅子を引く手が赤くてかじかんでいたから、手袋を選んだ。紫とグレーを混ぜたみたいな、桔梗鼠という色らしい。
名前と同じ、紫色が入っているのが気に入って、いろいろお店を見て回り、これを選んだのだった。
固まったように、ピクリとも動かない紫璃の藩王が気になり、つい隣の様子を窺ってしまう。
ちらちらと見ては、なんとなく居心地が悪くて、菜子はつま先をぶらぶらさせた。
もしかして、プレゼントが気に入らなかったのだろうか。次第に不安に駆られて、息を飲むように静かに膝を抱えた。
「……お前から」
静寂が紫璃の小さな声で破られた。波の音でかき消されそうなほど、小さな声で。
「……もらえるなんて、思ってなかったわ」
何を失礼な、と菜子は紫璃のほうを向いた。軽口を叩いて、笑い飛ばしてやろうと思っていたのに、それはできなかった。
あまりにも、紫璃の顔が赤くて。ちらちと見える耳までも真っ赤に染まっていた。
「クリスマスのことだって忘れてたくせに……。なんなんだよ」
彼氏ができて浮かれていたはずなのに、おざなりにしてしまった。取り繕うように、中途半端な期日にデートに誘ったはずなのに、計画も何もたてないまま、へらへらと笑っていた。
——ばつが悪い。
不愛想に聞こえる言い方は、ひどく優しさを含んだ声色で、菜子は困惑していた。
呆れられているのだろうか。それとも嬉しさの裏返しだどと思ってしまうのは、あまりにも都合のいい考えなのだろうか。