偽りのヒーロー
「いきなりこういうことされたらビビるだろ……」
包みを開けて取り出した、紫璃へのプレゼント。
手袋を握りしめていたその手が、菜子の頬にふわりと触れた。冷たいようで熱い手が、頬から頭の後ろへと流れて、だんだんと顔が近づいてくる。
近づいた顔を菜子の丸い瞳で見つめていた。眉間に皺をよせた紫璃が呆れたように言い放つ。
「……こういうときは、目、瞑れよ」
苦笑した彼の表情で、それがキスをされる合図だったことに気づく。目をぱちくりとさせた菜子が、顔を真っ赤にして、俯いた。
「ご、ごめん。わからなかった」
すみません、と慌てふためくその仕草が、まるでコミカルな喜劇のよう。ムードが台無しだなとばかりに、紫璃はぷっと噴き出し、可笑しそうに笑っている。
「空気読めよな」
茶化すような紫璃の声に、菜子は申し訳なさそうに俯いた。
キスの一つや二つ知っているだろうと言わんばかりの紫璃の言葉に、菜子は何も反応することができずにいた。
「……まじか」
ぽつりと呟く紫璃のその表情を窺い知ることはできなかった。
顔をあげるのが恥ずかしくて、紫璃の顔を見ることができなかったからだ。加えて、少しの罪悪感。好きかどうかも確実性のない気持ちのまま、そんなことをしてもいいのかという疑問。
菜子は足の間で手を握りしめた。
「お前まじでしたことないわけ」
紫璃の言葉には、何も返すことができなかった。今さらながら、紫璃との違いを見せつけられているようで。
答えのない菜子に、紫璃は続けざまに口を開いた。
「つき合うのが?」
「デートするのが?」
「……キスするのが?」
その全ての言葉に、菜子は小さく頷いた。
思ってもみなかったその矢継ぎ早の質問に動揺を隠せない。