偽りのヒーロー
帰りは、手を繋いで帰った。
まともに手を握るのも初めてで、自分の手が汗ばんでないか気になって仕方がなかった。
けれど、繋いでいないもう片方の手には、菜子のあげた手袋がはめられていて、何度もその手に視線を向けた。
珍しいその色の手袋は、紫璃によく似合っていて、思わず頬が緩む。
「ありがとう、送ってくれて」
マンションの下で笑みを浮かべると、名残惜しそうに手が離れた。
紫璃の背中が見えなくなるまで見送ると、途端に身体が熱くなって、崩れた顔をエレベーターの中で必死に整えた。
その日は、家族の待つリビングに行くのが恥ずかしくて、一目散に自分の部屋に向かったが、鍵のついてない子供部屋の前で父がうろついていた。
その後ろを、真似するように楓もちょこちょこ歩いており、扉を開けて突っ込まずにはいられなかった。