偽りのヒーロー




「しっかし、菜子と紫璃がつき合うとは思わなかったよな〜」



 教室の床に座り込み、掃除当番にも関わらずレオは掃除の邪魔をしていた。ちゃっかり未蔓をその横に腰を下ろして、せめて邪魔にならないように端っこに座ってくれと文句をたれた。

しかしながら、それは適わず雑談は止まらないようだ。



「どうなの、紫璃とうまくやってんの」



 へらへらと笑って、レオは箒の柄をぶらぶらと揺らしていた。ひらりと何かあたったような感覚が、菜子のスカートにすーすーと空気の通り道をつくる。



「うわっ!」

「え、何?」



 からん、と箒を落として、レオは大きな手のひらで目元を覆っていた。正しくは、覆った手のひらには細い隙間ができており、しっかりとレオの青い目が見えていたけれど。



「……叫びたいのは、こっちだよ……」



 まるで幼い小学生の男の子がスカート捲りをしているようにも思えた。「ばか」と菜子が罵声を浴びせると、わたわたと焦るレオが目に入る。



「だって、なんだよ! 菜子いっつも下に短パン履いてるじゃんっ!」

「いつもってなんで知ってんのさ」



 じろりと菜子が睨みつけると、しょぼんと大きな体を丸めていた。
 
ふざけて揺らした箒の柄が、行き場を失くして、スカートの裾をめくってしまったのだった。

いつもスカートの下に履いている学校指定の長ズボンを切ったジャージは、生憎寝坊により履くのを忘れてしまって、そのまま学校へ来たのだけれど。



「……見た?」



 風が吹いたほどの捲られた感じはなくて、少しのお目汚しくらいで済んだと思ったのが関の山。

立っている菜子と床に腰を下ろしているレオでは、見える範囲も角度も全く異なる。

正直なところ、そんなに見えてないだろうと思っていたところに、「見た……、ひらひらの水色の……」なんて事細かに説明するものだから、思わず菜子の眉間に皺が刻まれた。


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